59 エンチャント

「メイちゃんレベルアップおめでとうー」

「ありがとうございます。無礼講でお願いします」

「恩恵は獲得できたの?」

「多分。試してみます」


 メイが新しい恩恵を試している間に僕も恩恵を試す事にした。何事も検証が大事だ。あ、クリーンじゃなくてもっと前の罠スキル。


 とりあえず、ダンジョン宝箱というか開けるとクロスボウが発射される箱を作ってみた。"罠解除"でなく"罠スキル"なので罠を作ることもできるのだ。作ってみてわかるけど、この罠が発動する時は持ち主はもう死んでるわけで嫌がらせにしかならない。持ち主が間違ってケガするだけでは。ダンジョンの謎だな。


『もうちょっと実用的なもの作れないかな』

という事で、地面に設置してトリガーの糸を切ると発射されるクロスボウをいくつか作ってみた。待ち伏せには使えるかも。


「試作品が出来ました!」


 グレーのワンピースを着たメイがシャリとやってきた。シャリとお揃い。正統派金髪幼児体型と黒髪ロリ巨乳で全然タイプ違うけどお揃いだと姉妹って感じがする。胸のぱっつんぱっつんな感じは全然違うけどお腹のところとか似た感じ。

「えっと、何の試作品?」

「エンチャントですよ。鎧になってます」

「もう出来たんだ」


 メイの服の裾を摘んでみるが普通のフェルトだ。服の下に着けてるのかな。

 お腹を触ってみる。柔らかい。

「柔らかいよ」

「そうじゃなくて胸……」


 まさか胸を揉めってこと?でも実験の為には仕方がない。メイのぴちぴちに張り詰めたワンピースの胸に手を伸ばして。


「おにいちゃん、こっちだよ!」

シャリはメイとお揃いのワンピースの上に胸当てを付けているんだけど、ひょっとしてそっちだった?そういえばいつもの革製と違って金属だな。

「新しい胸当て?」

シャリはナイフを取り出してニコッとする。


「試してみて」

「どこを?」

「服の方」

裾を持つと普通のフェルトだ。ナイフでツンツンする。金属音。あれ?


「それだけじゃないんですよ」

横のメイが僕のナイフを取るとシャリの腕に軽く当てる。金属音。

「どういうこと?」


「大事なのは信じることなんです」

何を?

「これは胸当てじゃなくて全身を覆う鎧だと。そう信じてエンチャントするんです」

「どう見ても胸当てじゃない?」

「だから、着る人もそう信じてくれないと駄目ですよ」

「着る人を選ぶね」


「本当は指輪でも腕輪でもいいんですよ」

「ふーん」

「でも指輪だと納得感がないじゃないですか」

「そうかも」

「だから今回は胸当てですけど納得感があれば他のものでもいいです」

「へー」


「あと材料も丈夫な方がいいですね」

「それも納得感?」

「それもありますけど、結局そこにダメージが入るので壊れないようにですね」

よくわからないけどそうなのか。


「それじゃみんなの装備作ってよ」

「はい!」

メイは嬉しそう。



 どうもエンチャントの恩恵は時間が掛かるらしく、すぐには全員分できないとのこと。茶店を手伝いながらのんびり過ごす。


「タピオカティー四つちょうだい」

レイラさんのパーティが来ている。タピオカを持っていくとダンジョンの話をしていた。


「君たちあれから三階に行ったんだよね」

レイラさんに聞かれる。

「行きましたけどトロールがいっぱい出てくるから危ないですよ」

「うーん、バグベアだと強い割に儲けがねえ。もっと一発で稼ぎたいんだけど」


 ダンジョンは時間を空けないでボスを連続で倒すと宝箱の中身が少ないようだ。ジャックポットのあるスロットマシーンみたいな感じかな。ちなみに僕らの最近の収益源は宝箱じゃなくバグベアの酒蔵からかっぱらってくる酒だったりする。金じゃないから税金かからないしね。


「楽なのはゴブリンキングですね」

「あれ混んでるからねえ」

世の中一攫千金は難しい。


・・


「父さん農業を辞めて飲食店経営で食っていこうと思うんだ」


 なるほどですね。


「今もお茶の売り上げなんて微々たるもんだよ」

一応言っておく。実際売上のほとんどは母さんのヒールだ。

「店を広げて食べ物を充実させれば」

「農業辞める必要なくない?」

「退路を絶った方が本気度が伝わらないか」

「誰に?」


 とりあえず農業は続けてもらおう。お店は誰か雇えばいいんだよ。


・・


「なんでみんな堅実に生きないんだろうね?」

「それ自分に言ってる?」

「僕はいいんだよ。この歳で堅実とかなくない?」

「お兄ちゃんはどうしたいの?」

「うーん」自己啓発本みたいなこと言うね。



 夜。並んで眠る。人数が増えて六人だから狭い。あかりの向こうからメイの声が聞こえる。

「あかりちゃんは日本に帰る方法を探してるんだ」

「メイは中国に帰りたくないの?」

「どうでしょう。家族には会いたいですけど」


 あかりはメイの方を向いて横向きになっている。僕もあかりの背中を向いて横向きに寝る。シャリが僕の背中に抱きついてきた。僕の胸にシャリの手が回ってくる。僕はその手の甲をそっと握る。


(・・ おにいちゃんも帰りたいの? ・・)

シャリの声が頭の中に聞こえる。僕はシャリの手を二回握る。

(・・ ずっとシャリと一緒にいてくれる? ・・)

一回握る。

(・・ 最近随分メイちゃんに熱心だけどもうシャリは飽きたんじゃないの? ・・)

強めに二回。

(・・ いつもメイちゃんのおっぱい見てるよね ・・)

素早く二回。

(・・ 今嘘ついたね ・・)

え、そんな機能あったっけ?動揺する。とりあえず否定。二回。


 シャリが背中に胸を押しつけてきた。小さいけど柔らかいものがぐりぐりと背中になすりつけられる感触。

(・・ シャリのおっぱいじゃ物足りない? ・・)

否定形疑問文への回答は難しいな。えっと二回?

(・・ おにいちゃんの嘘つき ・・)

シャリが静かにクスクス笑う声。

(・・ いいのよ。シャリも一緒に行きます ・・)

一回。握りしめたまま眠る。

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