72 総本山
メイが教会の総本山に行く日。一緒に来て欲しいとお願いされた。
「何か聞かれても私だと説明できないから」
と言われるとしょうがない。一応僕とシャリも隠ぺいをかけて一緒に行くことにした。さすがにレベル1は怪しすぎるので僕はレベル3、シャリとメイは2という事に設定。
隠ぺいは三人までなのであかりは情報収集のため別行動することになった。僕とシャリは前にメイが作ってくれた服に着替える。
メイの家の前に教会の馬車がやって来た。黒塗りでつるつる塗装で高そうな馬車。僕ら三人、メイのお父さん、それに教会のシスターが馬車に乗る。メイはシスターとは顔なじみらしい。30歳ぐらいで優しそうな人。
「元気になって本当によかったね」
とか言われている。いやまあ悪い人たちじゃないんだとは思うよ。若干怪しいだけで。
歩くよりは早いぐらいの時間で総本山に到着。馬車を降りると丘の上に塔が見えた。そしてそれを取り巻く城塞のような石造りの建物が丘にへばりついて建っている。丘自体が大きな建物になっているかのようだ。フランスのモンサンミッシェルみたいな感じ。
「ここからは歩きです」
シスターが僕たちの名前を告げると丘を取り巻く城塞の門が開いて中に入る。
道は建物の間を縫うように右に行ったり左に行ったりしながら丘を登っている。メイのお父さんとか大変そうかなと思ったらそうでもなさそう。シスターも慣れているのか平然としている。レベルを見るとどちらも3だ。メイのお父さんはともかくこのシスター見た目よりレベル高いな。
すれ違う人のレベルを観察してみると街よりもレベルが高い。3が普通にいて4も時々いる。恩恵の宗教だからレベリングしてるのかもしれない。シスターに聞いてみようかとも思ったけど、僕らは付き添いなので黙ってることにした。
やがて大きな建物に入る。建物の中の通路も迷路のようで増改築を重ねてきた感じがする。やがて僕たちは一つの部屋の前で止まった。扉の前には外に護衛っぽい人。兵士というより僧兵なのかな。角棒を持っている。
「メイ・ハーネスさんとそのお父様、それからご友人をお連れしました」
シスターが言う。メイの姓を初めて知ったよ。
しばらく部屋の前で待たされた。そういうものみたいで椅子が置いてある。かなりの時間が経って扉が開いた。
「いらっしゃい。お久しぶり。メイさん。それからミスターハーネス。あと君たちも」
人のよさそうなおじさんだ。反射的にレベルを見ると6。司教クラスかな。そして僕の頭にチリチリとした感触。鑑定を掛けられてる。
「お久しぶりです。パウル司教様」
メイが挨拶を返す。何事もなかった風。隠ぺいバレてないかな。
・・
世間話の後、本題に入る。
「よくもまあ妖精の子から無事大人になったものだ」
感心するパウル司教。
「こちらのフィンとその妹たちに助けられたのです」
説明するメイ。
「それはどのように?」
というところから、僕が入ってざっくり説明する。本当にざっくり。ダンジョン行って魔物を一緒に倒したとだけ。
「…………ということで、メイと僕らは男爵領のダンジョンに行ったんです」
「なるほど。ところで、なんで君はメイさんをダンジョンに連れて行こうと思ったのだね」
「妹のシャリと同じだったので」
「ほう。君も妖精の子だったのか」
シャリを見てにっこりする。
「君もダンジョンで鍛錬したのかね」
「私はおにいちゃんと森で」
「なるほど。それは大変だったね」
司教は目を細めてシャリを見る。
「鍛錬を積むならダンジョンが一番効率的だ。山や森で魔物を探していては時間がかかりすぎるし、うっかり強すぎる相手に会うこともある」
「ダンジョンでもやたらに強い相手がいることもありますけどね」
僕が返答すると司教はうなずいた。
「うちの教団も鍛錬で無駄な危険は冒したくないのだが、結局のところ安全ではレベルが上がらんのだよ」
「そのレベルというは何ですか」
一応聞いておく。
「レベルというのは強さみたいなものかな。鍛錬でレベルが上がったものには神が恩恵を授けてくれるのだ」
「そうなんですね」
「人々がレベルを上げることが神の御意志に沿うことなのだ。神は恩恵を持って答えてくれる」
司教の説明が熱を帯びる。ずいぶんマッチョな宗教だな。
「この世界で人間の生息域は狭まってきている。そのため神は人に二つの力を与えてくれた。その一つが恩恵なのだ」なんか聞いたことある話だ。
「なるほどですね。もう一つは」
「いや、それはうむ」
司教は言葉を濁した。ちょっと話を変えよう。
「それで、この教団の人はこの地で鍛錬してそのレベルを上げているのですか」
「まあ、そうだな」
司教は軽く口元に微笑みを浮かべる。
「今日はありがとう。君たちのような人がいることが我々に救いを与えてくれるよ」
「どういたしまして」
「ところでメイさん、恩恵を授かってなにか変わったかね」
「はい。恩恵の力を使えるようになりました」
「他には。例えば知らなかったことを思い出したとか」
「いえ。いまのところ特には」
「そうか。君たちに神の祝福がありますように」
僕らは頭を下げパウル司教との会見は終了した。
帰り道、まだ教会の建物の中を歩いているとき、遠くから爆発音が聞こえた。
「なんでしょう?」
「工事でもしているのかもしれません」
シスターは静かに答えた。
「ここではよくあることです」
建物を出てちらっと振り返ると、山頂の塔から煙が出ていた。
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