71 二つの塔

「お父さんがどうしても教会に行ってくれって言うんですよ」

どうも、妖精の子から大人になれるのは稀ということで教会がメイに来て欲しいとのこと。

「断れないの?」

「教会の服ってうちが納品してるんですよ」

なんか世知辛いな。

「それに招待頂いてるパウル司教という方は以前から相談乗っていただいてる方なんです」

それだと断りにくいな。招待は来週という事なのでそれまでにどうにかしないと。


 街を歩き回ってひたすらレベル判定する。地道なレベル上げ。

『あと三日ぐらいかな……』

この恩恵は集中しないといけないのでかなり疲れるのだ。連続してやれるものでもない。しかも同じ人にやってもレベルは上がらないようだ。そりゃそうだな。無限にレベル上げ出来るかと思ったけどそういう簡単な話ではなかった。


 教会の前、ちょっと離れて出口を見ている。礼拝が終わったようで人がわらわら出てくる。チャンスだ。

「えっと、0、0、1、0、0、0、1、0、1、0、0」

0が多いな。子どもばっかりだ。子供が集まる日なのかな。


「おにいちゃん」

ひたすらレベルを見ていると後ろから声がした。振り返るとシャリだ。袋にパンのようなものを持っていて僕に分けてくれる。温かい。齧ってみると中にひき肉。これは肉まんでは。

「どんな感じ?」

「肉まんだね」

「これじゃなくてレベル上げのほう」

「正直ダンジョンのほうが楽」


 そうしているうち、教会の正門が開いてお付きを従えた一行が出てきた。とりあえずレベルを計測する。

「2、2,2、2、3、4、4、5、6」

あかり以外で初めてのレベル6だよ。真ん中で偉そうな感じの人だ。待っていた馬車に乗り込んで見えなくなる。


・・


「今日の礼拝だと、どなたか司教様ですかね」

一日こなして帰ってからメイに聞いたらそんな回答だった。街に来るのは普通司教までで、大司教は滅多に出てくることはないらしい。

「でも司教でも8個以上の恩恵を持ってるんだよね」

「そういう話ですね」

ちょっとレベルと数が合わないんだよな。


「でもレベル5や6もいたことだし、メイがレベル5でもそんな目立たなくない?」

「そんなことないわ」

あかりが答える。

「レベル5なんて何千人に一人よ。転生者より少ないかもしれない。まして子どもなんかありえないわよ」


「そういえば転生者ってここにもいるの?」

「探せばいるわね」

まあ肉まんがあったぐらいだもんな。


「それよりダンジョンについて聞いて回ったんだけど」

おもむろにあかりが話す。そういえばそっちがメインだったよ。


「メイの言ってた王都のダンジョンというのはこの街から出て山の上にあるの」

そういえば王都のダンジョンに入れないからうちの村まで来たんだよな。

「子供は入れないっていうのもそうみたい」

「どうやって子供かどうか見分けてるのかな」

「どうやら恩恵の数みたいよ。教会にあったあれじゃない?」

「そうなると僕たち目立ち過ぎだよね」



 二日後の夕方。

「えっと、レベル1、0、1、1、0、2、1」

突然体の奥から力が沸き起こる感触。

『レベルアップ来たー。えっと隠ぺいできる恩恵がいいな』

対鑑定スキル阻害みたいな都合のいい恩恵を願う。そんなのあるのか知らないけど。


「あかり、鑑定してみて」

「レベル上がったの?えっと、あれ?レベル1になってる」

あかりが鑑定するとちょっと頭がチリチリした。解除してみる。

「じゃあもう一回」

「今度は、あれレベル3だ」

どうやら隠ぺいの恩恵取得に成功したようだ。なんでもありだな。


 いろいろ試してみたところ三人まで隠ぺいできた。これはレベル分の人数かな。問題はこれがあの祭壇にも有効かどうかだけど。


・・


 翌日、まずは四人でダンジョンを見に行く。メイの両親には内緒。


 といってもダンジョンの中には入らないでまずは様子を探ることにした。街を出て二時間ほど歩くと小高い山というか丘があって、その山頂部分に塔が立っている。


「あの塔?」

「あそこの塔にダンジョンの入口があるんだって」

そうなのか。

「それじゃ、あの塔は?」

隣にもう一つの丘があり、やはり塔が立っている。


「あれは教会の総本山ですよ」

メイの説明を聞いて見比べる。なんか似たような塔じゃない?


「この塔っていつからあるのかな」

「古代ローヌの遺跡だといわれてます」

例のダンジョン文明か。

『これは教会にもダンジョンある流れでしょ』


 塔のダンジョンに行ってみることになった。というか入り口にあるという噂の恩恵判定機の挙動を確認したいんだよね。


 塔は一番下の外形が20メートルぐらい。入り口は開いている。見えてる壁が分厚いので中はそんなに広くないな。警備の兵士に呼び止められる。

「子供はだめだぞ」

「今年成人しました」

「それじゃあそこで手続きして」

奥に柵がしてあり、その脇にお姉さんが暇そうに座っている。


「すいませーん。このダンジョン僕たちも入れるんですか?」

いきなり声を掛けたらお姉さんびっくりしたみたい。


「え?子供は入れないわよ」

「成人です。いくらですか?」

「恩恵の数で違うけど」

聞いたらレベルが高いほど割高みたいだ。累進課税かな。


「恩恵の数ってどうやってわかるんですか」

「この台に手を置いて」

例の集中線が入った星の彫刻がしてある。隠ぺいを恩恵1つに調整してちょっと身構えながら手を置いてみる。


ポワン。


 僕の前に一個光が浮かんだ。

「1つね」

あの装置にも隠ぺいは有効みたいだ。


――


フィン:レベル3(up)(人間:転生者)

・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル、炎、クリーン、テイム(妖精)、言語理解、耐熱、隠ぺい(new)


シャリ:レベル5(人間)

・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性、催眠術


あかり:レベル6(エルフ:転生者)

・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒、マッピング


メイ:レベル5(人間:転生者)

・恩恵:衣装製作、アイテム化、投げナイフ/ダーツ使い、エンチャント、形状加工


――

シャリが肉まん買ってきた挿絵

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652774720235

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