112 お礼

「あかりの今度の恩恵はなんなの?」

「知りたい?」

えっと、前なんて言ってたっけな?


――回想――


「レベル7になったら上級攻撃魔法が使えるようになるわ」

 …………

「星を召喚して街を滅ぼしたり」


――回想終了――


「また今度でいいや」

「えー」


・・


 翌日、メイとあかりが出かけて行った。本拠地だっけ?の工事みたい。

 シャリと二人だけなんて久しぶりな気がするな。ところで、僕らは次のダンジョンはどこに行けばいいんだろう。メイはすっかり工事に夢中だしあかりはなんか情報持ってないかな。


「おにいちゃん!」

ベッドに寝ころんで考え事をしているとシャリが抱きついてきた。


「シャリ、せっかくだしどこか出かけたい?」

「シャリはおにいちゃんと一緒ならどこでもいいよ」

そっかそっか。シャリの頭を撫でる。


「お城に置いてきてごめんね」

「おにいちゃんの役に立てたのならいいんだけどね……」

「けどね?」

「おにいちゃん、なんでシャリの友達とあんなに何回もチューするの?」

え?


「なんでって、その時も一緒にいたでしょ」

「シャリは、いいって言ってないよ」

まあそうだけど。


「許可取らないとだめ?」

「シャリはさびしかったんだよ」

「ごめん……」

「それなのに、おにいちゃんときたらすぐまた新しい女といちゃいちゃいちゃいちゃ」

「でもシャリが一番だからさ」

シャリがフフッと鼻をならす。そこ笑うところ?


 シャリは僕の胸に頭を乗せてきた。そっと髪を撫でる。久々にふたりで寝ころんでいる気がする。


「お兄ちゃんの心臓の音聞くの昔から好きだったの」

「そうだったな」


 シャリはそのまま寝てしまったようだ。僕もちょっと昼寝するか。


・・


「ニャー」


 目が覚めるとベッドで横に白い子猫がいた。無茶苦茶かわいい。


「よーし」


 両手でそっと持ち上げると胸の上に置く。頭から背中をそっと撫でる。

「にゃーぉ」

モフモフだよ。しばらく撫でまわしてみる。このモフモフ感クセになるな。これはやばいね。いろんなところを撫でると子猫はすっかり気持ちよさそうに伸びている。かわいい。


 ふと気が付く。


『うっかり撫でまわしたけど、よく考えたらこれ妹なのでは』

子猫は撫でまわされてぐでんぐでんになっている。


「フィン様、お客様です」

「はい、すぐ行きます」


 完全に伸びた猫を手に持って出かける。


・・


 パウル司教の秘書の人が来ていた。


「呼び出しなら行きませんよ」

「すぐそこまで来てるから!」

無理やり連れだされた。いつもの黒塗りの馬車。


「で、何の用ですか?」

「あの後、姫様のレベル上げただろ。レベル4になってたぞ」

あ、レベル上げた後に隠蔽するの忘れてた。


「レベル上げないと騒ぐっていうから……」

「レベルってのは騒いだら上げてもらえるようなものなのか?」

「もちろん大事なのは日々の努力のコツコツとした積み重ね?」

「そこなんで疑問形?」

「そういえば今日は何の用ですか?」

まさかこれ言うためだけに来るほど暇じゃないよね。


「礼をするって言ったろ」

「そうでした」

意外と義理堅いんだな。考えてみるけど、僕には特に欲しいものないし……


「ちょっと相談してみます」


「ところでその猫だが」

「猫です」

「レベル7なんだが」

「ただの猫ですよ」

「ただの猫はレベルないだろ」

「最近はあるんですよ」



「シャリさんとあかりちゃん、レベル7おめでとう!」

「無礼講ね!」

「にゃー」


 レベルアップパーティー久しぶりだな。


「お兄ちゃんも下がっちゃったけど一応おめでとう」

「そういえばシャルロットのパーティーやってなかったね」

人に戻ったシャリが言う。やっぱり人の時もかわいいなあ。


「シャルロットは、まあいいんじゃないそのうちで。それより結局あかりの恩恵はなんだったの?」

「知りたい?」

「街を壊さない範囲で」


「えっとね、鑑定の上級版かな。モノの由来とか歴史とかいろいろ分かるのよ」

「意外と堅実?」ちょっとびっくりかな。


「あかりちゃん、それどこで使うの?」

「教会の大司教の部屋を漁ろうかと思って」


 あ、ちょうどいいかも。


「それじゃ、それをパウル司教にお礼として言ってみよう」



「ということで、大司教の部屋を調べさせてください」

「それはちょっと難しいかな」

司教は渋い顔。


「ちょっと難しいぐらいなら全然大丈夫ですよ」

「ちょっとというのは言葉の綾で、あの部屋には入れないんだ」

理由を聞いてみる。


「これから大司教選挙コンクラーベがある。あの部屋は次の大司教が決まるまで封印されているんだよ」

「封印を破らなきゃいいんですよね」

司教は面倒くさいやつを見るような目で僕を見ている。


「にゃー」

「ほら大丈夫だって言ってます」

「見つかるなよ」

「もちろん無問題」


「そういえば、次の大司教ってどうなるんですか?」

大司教選挙コンクラーベまでしばらくかかる。司教の八人がそれぞれ一票と、国王は三票持っている。それまで各陣営とも営票取り合戦だ」

なるほど。国王票は確保したってことね。


「政治活動には興味ないので頑張ってください」

パウル司教は肩をすくめた。



「ということで、大司教の部屋漁り放題、開催決定!」

「やったー!」


――

挿絵1 ねこ(レベル7)

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330653190610240


挿絵2 レベルアップパーティーだよ!(バレンタインスペシャル)

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330653196231678

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