56 妖精の瓶

「おにいちゃんとメイちゃんレベルアップおめでとうー!」

「例によって無礼講よ」


 今日のメイは前に着ていた深紅のチャイナドレスだ。今日は黒髪を上の方で結えたツインテールにして、なんと銀縁眼鏡。


「ドスケベチャイナ眼鏡っ子!」

あかりの感想。


 最初はそんなかなと思ったけどよく見たら採寸と縫製が完全だから布に弛みがなくてぱっつんぱっつんなんだよね。胸の丸いぷるんとした感じとかちょっとやばい。

 あとスリットから見える太腿が意外と細いのがまたアンバランス感があってですね。なんか眼鏡とチャイナって相性いいよね!みたいな!


「に、似合うね!」

挙動不審になる僕。僕の属性の何かにヒットしたらしい。あかりとシャリがジロっと僕を見てる。

「ていうか、この世界に眼鏡ってあるんだね!」

話を変える。そういえば眼鏡見たことなかったよ。


「これはですね」

メイが眼鏡を外して一言言うと、ボフっと目の前に防壁君が現れた。

「アイテム化で作れるんですよ」

いよいよインチキっぽいぞ。


「もう一回レベル上げするの?」

シャリに聞かれる。理論上はメイのレベルを4にした方が効率的なんだけど僕がレベル1になるといろいろ死にそうなんだよね。


「メイがレベル3に慣れてから考えてもいいかな」

いきなりレベル0から3まで上がったのだ。いろいろ慣れた方がいいだろう。


「そういえばメイは初めてのレベル3だけど僕のレベル2って何回目なんだろう」

「ご祝儀ないから気にしないで」



 今日はダンジョンに行く日だ。夜明け前から準備して茶店で集合。宿屋からゾロゾロと出発する冒険者もいる。冒険者の朝は早いのだ。


「今日はよろしくお願いしますね。フィン」

メイド服のメイがにっこり微笑んで僕の前に来て両手で僕の手を抱える。

「えっと、よろしくね。メイ」

「はい!」

僕の手がぎゅっと抱えられ柔らかい胸に押し当てられる。っていうかさっきからわざと押し当ててない?


「あかりおねえちゃん、あれはまずいのでは」

「なかなか強敵ね」

妹たちがなんかコソコソ言ってる。


「早く行こうよ!」

僕はみんなに声をかける。

「はい!」

メイは自然に僕の腕を取って歩き出す。相合傘の時以来だけど歩くたびに腕とか肘が胸に当たる感触がすごいんだよね。



「おねえちゃんこういうのはNTRって言うんでしょ」

シャリがあかりに聞いている。ダンジョン二階のボス部屋前だ。もうちょっと緊張感とかあった方がいいんじゃない?


 ボス部屋は空っぽだった。誰かが倒してまだリポップしてないんだろう。だんだん世知辛くなってきたな。ちなみに隠し部屋は途中で寄ってきて酒樽がリポップしてたので回収してる。おかげでスコップ!は持ち歩くことになったけど。


「ご飯ですよー」

メイが食事の用意をしてる。鍋は僕の炎の恩恵で温めたけど、みんなの荷物とか食料はメイがまとめてアイテム化してるから随分楽になっている。


「ありがとう。メイのおかげでホント助かったよ」

「いえ私は恩返しができればそれでいいんです」

と言いながらメイが近寄ってきて僕の手を取る。なんかメイって距離感が近いな。目の前の黒髪美少女にちょっとドキドキ。シャリがなんかじっと見ているんだけど。


「ご飯の後もリポップしてなかったら三階行こうよ」

「なんで三階のリポップだけ早いのかしら」

あかりがつぶやく。そうなんだよね。



 三階。僕とメイは先にトロール用痺れ薬を塗ったダーツを手にしている。あかりもダガーではなく投げナイフだ。今回はダメージで倒すのではないから手数勝負なのだ。


 通路の向こうから大きな姿がやってくる。トロールが一体だけ。チャンスだ!僕らは二階への階段近くまで戻りトロールを誘き寄せる。トロールが近づいたところで振り返り、みんなで攻撃!痺れ薬の塗られたダーツやらナイフやらが五、六本刺さるとトロールの動きが止まった。効いた!


 まずトロールを横たえる。3メートルはある魔物なので結構大変。シャリに攻撃力付加してもらってスコップ!でトロールの両足を切断する。トロールの青い血が吹き出してスプラッターになるがそのまま上半身と下半身を切り離す。なんか蟹を捌いてる気になってきたぞ。

 上半身から腕と頭も切り離して胸の辺りだけにする。完全に料理感覚だ。切り離した部分はあかりがまとめて硫酸をかけているので変な匂いがしてきている。


 トロールを細かく切り出していくと心臓が残った。ピクピク動いている。このぐらいでいいかな。大きめの瓶に入れるとしっかり蓋をする。こんなもんでしょうか。

 辺りはトロールの青い血でべっとり。僕もべっとり。そうかこれだとトロールは死んでないから血液は霧になって消えないのか。ちょっと盲点だった。


 煙の匂いを嗅ぎつけたのか通路の向こうからトロールがやってくるのを気配察知した。二体。今日は帰ってもいいんだけどせっかくだしな。

「あれは倒そう」

あかりが呪文の詠唱をスタートする。僕とメイがダーツを遠投する。もちろん痺れ薬付きだ。


『あかりの呪文が長いな……』

なんか嫌な予感。

「撤退する!先逃げて」

メイが防壁君をアイテム化して僕のスコップ!を抱えたシャリと階段に向かう。僕はあかりの後ろで待機。


 あかりの詠唱が終わる。

「マジックボム」

通路の奥であかりの魔法が発動した。純粋なエネルギーが解放され、白い光となって広がる。トロールは影となって光に飲み込まれて消える。


 僕はあかりのウェストを思いっきり抱きしめると階段に向かって。

『縮地!』

ギリギリセーフで階段に転がり込んだ。


 熱と爆風が通路を吹き抜けていく。なぜか階段には来ない。ダンジョンってそういうものなのかな?


「倒したわね」

「通路じゃ危ないから!」

ていうかそれダンジョンで使うような魔法じゃないって言ってなかった?

「奥が広がってたから爆風はあっち行くから死にはしないわよ。それに」

それに?

「後ろにいた何かもちょっとはびっくりしたでしょ」

「なんかいた?」

「いたとしたら、ね」


 転がったけどトロール瓶は割れてなかった。青黒いグニャグニャがドクドク動いている。これは割ったらやばいやつだ。

「トロールって妖精だからこれは妖精の瓶だよね」

なんかグロいけど。

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