55 有識者
ボスに行く前にメイのレベルを上げることにした。メイの前に立つと、そっとメイド服のメイを抱き寄せる。
「メイ」
「フィンさん」
メイは顔を赤らめる。
「弟なんだからさんはいらないよ」
「でも年上ですし」
「いいから」
「じゃあ、フィン!」
あ、女の子に名前呼びされるの初めてかも。無茶ドキドキするぞ。
「メイ」
じっと目を見つめる。
「おにいちゃんなんで雰囲気出してるのよ」
「そうよさっさとチューしちゃいなさいよ」
妹たちが茶々を入れるが、メイは僕にその赤らめた顔を寄せる。僕と同じぐらいの背だが、メイはほんの少し顔を上げると目を閉じた。その口が微かに開く。黒髪に色白の肌。近くで見ると無茶かわいいな。なんか照れてきたぞ。
僕がなかなかキスしないでいるとメイは僕に抱きついて来た。柔らかい感触。そして胸の弾力。薄目を開けたメイがそっと囁く。
「フィン、早く」
「恩恵考えててね」
僕はそう言うと右手をメイの頭の後ろに置いた。黒い髪を触る。メイが目を閉じる。僕はその小さな唇に僕の唇を重ねる。メイが抱きつく力を強くしてくる。
「うぐうぐうぐ」
メイが何かの返事をしたがよく聞こえない。今度はレベル3だからな。念入りにしとくか。僕も抱く力を強くする。
メイの口にそっと舌を入れると、待ち構えていたようにメイの舌が絡みついて来た。ちょっとびっくりしたが妹で慣れてるので動じない。右手でメイの頭を抑える。
そろそろいいかな?
『
メイは目を閉じたまま僕と舌を絡めている。僕とメイの間にレベル回路が形成される。
『
「うふんんんうん」
「いつまでやってるのよ」
あかりの声に、メイは上気した顔で僕から体を離す。
「よかった」
「メイちゃんばっかりずるい」
「それで恩恵は?」
「ダーツです」
「へー」
◇
ところで僕たち、さっきからバグベアの隠れ部屋にいるんだけど、溢れた酒の匂いがすごいんだよね。これでバグベアの死体が残ったら大変なところだった。
「おにいちゃんこの樽入ってるよ」
残骸を漁っていたシャリが見つけた。
栓を開けてみるとプーンとアルコールの匂い。かなり強そう。
「売れるかな」
「妖精の酒ね。売れるわよ」
あかりが答える。樽をちょっと持ってみるが結構重い。50キロぐらいあるのでは。
「メイ、これアイテムにできる?」
「やってみますね。えい!」
樽が消えた。成功!メイって意外と重いんだな。
「ひょっとして何か失礼な事考えてません?」
メイがジト目で僕を見ながらミニチュアの酒樽を渡してくる。
「いや、レベル上がったらアイテム3個になったんだなと思って」
なんとかごまかした。
◇
「ボス部屋よ!」
いつものようにあかりが左右開きの扉を前に振り返り、両手を腰に当てて宣言する。今日のチュニックは脇が開いたやつなので振り返る瞬間がちょっといいね。
シャリがあかり以外の三人に攻撃力付加をして、シャリとメイが並んで扉を蹴破る。僕はレベル1なのであかりの護衛に回る。
「お邪魔しまーす!」
前回と同じ部屋。バグベア少ないかも。一応気配察知もするが……
「隠れてない。前のだけだ」
今回はボス含めて五体だ。
あかりの呪文詠唱が始まる。
「防壁君!」
メイの前に個人用防壁が出現する。部屋の向こうでバグベアが槍を構えて、投げて来た!
「ガツーン」
防壁にヒット。続けてあと三本。
「今回少ないな」
メイがダーツを投げると、不自然な軌跡で数十メートル飛んでボスにヒットする。
『やっぱり恩恵ってインチキっぽいな』
そうこうしているとあかりの魔法が発動し、部屋の奥の方に魔法の刃が飛び交う。一番端にいたバグベアが逃げようとするが、手斧とダーツが迎え撃つ。
あかりの魔法が終わりそう。立っているのはボスだけだ。僕は槍を最大まで伸ばすと、しっかり構える。5mぐらいあるぞこれ。
『縮地!』
魔法の終了と同時に発動。重騎士のランスほどもある巨大な槍がバグベアの親玉に突き刺さった。バグベアの巨体は崩れるように倒れる。
体の奥から力が込み上げてきた。レベルアップだ。かなりインチキっぽくなってきたな僕。
「またレベル上がったんだけど」
「おにいちゃんおめでとう」
「おめでとうございますフィン」
あかりは話を聞いてないで宝箱を見つけてきた。さっそく罠を探してみる。恩恵を発動!
「罠はないみたい」
シャリが鍵ごとぶっ壊す。金貨があったけどなんか少ないなあ。まだ溜まってないのかもしれない。
「そういえばお兄ちゃん今度の恩恵は?」
「えっと、トロール対策で炎にしてみた」
手から火を出してみる。
「おにいちゃんすごい」
シャリはいつも褒めてくれていい子だなあ。
「こういうのも」
槍に炎を纏わせて振る。空中に炎の軌跡が残る。どうやらどこからでも炎を出せるみたい。
「手品みたいね」
「これならトロールも再生しないんじゃないかと」
「じゃあちょっと行ってみる?三階」
物足りない様子のあかりが言う。二階が出涸らし感があったしな。攻撃力付加もまだ効いてるし。
「そろそろ行ってみようか」
◇
三階。見覚えのある通路からこないだの部屋に入る。今度は最初からトロールが二体いたよ。やばい予感。
「下がれ!」
部屋を出ると通路からトロールが二体やってきた。挟み撃ちだ。嫌な記憶が蘇りそうになる。いやそれはなかった過去だから。
「みんなは通路を」
僕一人で部屋の二体のトロールの方に向き直ると、メイから渡されたミニチュア樽を投擲した。コマンドワードを叫ぶと空中に酒樽が現れてトロールに激突し砕け飛び散る。槍を伸ばし、新たな恩恵を発動する。
『炎!』
穂先から炎が吹き出すと、アルコールに引火した。部屋の中に爆発的に炎が広がったところで扉を閉める。
部屋の外は既に一体のトロールが倒れていた。三人で集中攻撃したのだろう。もう一体もメイの防壁が邪魔になっているようだ。
魔法の槍を投げ槍サイズにして投擲!
例によって槍使いと投擲と攻撃力付加の恩恵三重掛けになっている槍にトロールが串刺しになる。そこにマジックミサイルの群れが突き刺さった。
トロールが倒れる。僕は投げた槍を回収。メイも防壁を指輪に戻す。
「逃げよう!」
このトロールは焼いてないし、部屋のトロールも倒すまでのダメージは入ってないだろうからレベル上がらないのがもったいないけど、ここは危なすぎる。
◇
結局、帰って有識者に聞いてみようということになった。
「こんにちは、おばあちゃん」
「おや、フィンじゃないか。みんなしていらっしゃい」
薬草のおばあちゃんはニコニコと出迎えてくれる。
「トロールを倒さないように何とかしたいんだけど」
「なんとかって?」
「動かなくしたいな」
「うーん、例えばしびれ薬かい?」
「そんなの効くの?」
「体の中に入れてしまえば」
「えー」
僕の頭の中にトロールを捕まえて口から薬を流し込む光景が浮かぶ。
「トロールに薬を飲ませるのとか無理じゃない?」
「ふぉっふぉっふぉ」おばあちゃんが変な声で笑う。
「傷口からでも効くの?」
あかりが鋭いことを言う。
「効くさ」
トロール用のしびれ薬を買い込んで、ついでにこないだの疑問について聞く。半分半分と切っていったらどうなるのってやつ。
「瓶に入るくらい小さくできたら持ってきてくれんかな」
やっぱりどんどん切っていくと小さいトロールになるみたいだ。
「何に使うの?」
「薬の原料になるじゃて」
何の薬かな。まあいいけど。
――
フィン:レベル2(人間:転生者)
・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル、炎(new)
シャリ:レベル5(人間)
・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性、催眠術
あかり:レベル6(エルフ:転生者)
・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒、マッピング
メイ:レベル3(up)(人間:転生者)
・恩恵:衣装製作、アイテム化、投げナイフ/ダーツ使い(new)
――
メイちゃんメイド服イラストはこちら
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652880885963
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