54 アイテム化

「メイちゃん、レベルアップおめでとう!」

「無礼講よ」

「いつもだよね」

居室に四人で集まる。


「それでは新しい恩恵をお見せします」

「待ってました!」

みんなで拍手。


「それではこの椅子を」

メイは立ち上がると、座っていた椅子に手を掛ける。木でできた普通のダイニングチェアーだ。

「えい」

椅子が消えた!

「そしてこうなりました」

メイが握った手を開くと、指輪がある。


「やっぱりアイテムを作る恩恵なんだ」

「でも椅子が指輪って大きさが合わないわよね」

僕とあかりが感想を言う。


「ちょっと待ってくださいね。で、この指輪をですね」

メイは指輪を床に放り投げる。そして。

「元に戻れ」

椅子が現れた!

「なにそれ」


 僕はスコップ!を持ってくる。重さ15キロぐらいある大盾型スコップだ。

「これもできる?」

「えい」

スコップ!が消えた。メイの手のひらに腕輪が。

「指輪じゃなくても小物なら出来ますよ」

「ちょっと見せて!」

腕輪だ。全然重くない。


「これ僕も戻せるの?」

「さっきの言葉を言ってください」

「元に戻れ」

僕の手の中で腕輪からスコップ!が復活。


 そこからみんなで検証した結果、こんな感じ。


・何回でも出来るけど同時に二個まで。これはレベル関係あるかも。

・手に持てるものまで。自分より重いもの、他人の持ち物、生き物は駄目。

・時間が経つと切れるかもしれないけどしばらくは大丈夫っぽい。


「これって事実上の空間収納では」

ちょっと閃いたことがある。


・・


 スコップ!を作ってもらった武器屋というか鍛冶屋にメイを連れていく。

「この子がすっぽり隠れるぐらいの地面に置く盾みたいなものが欲しいだけど」

「いいけど重くなるぞ」

「この子より軽ければいいよ」

「ふーむ」

鍛冶屋のおじさんがメイを見る。

「木で枠を作って鉄を貼るか」


 というわけで防壁君が完成したので兄妹にお披露目。重さはちょっとメイより軽いぐらいの一人用防壁というかシェルター。裏にダーツをストックできるようになってる。

「えい」

指輪になった。メイが指にはめる。

「インチキっぽいわね」

あかりが感想を述べる。


「僕のスコップ!も指輪にしてよ」

「えい」

メイが指輪にして僕に嵌めてくれる。

「なんでわざわざ人差し指に嵌めるのよ」

メイが赤くなる。ちょっとかわいいかも。



 とりあえず僕とメイのレベリングためにダンジョンへ。メイはレベル2になったし、僕もスコップをアイテム化してもらったので今度は楽に行ける。


 そのメイはなぜかメイド服だ。

「なんでまたメイド服なの?」

「転生前の前職で着てたんですよ」

まあ仕事着といえば仕事着かもしれない。


「メイドやってたの?」

「いえ、メイドカフェでアルバイトを」

僕の思ってた中国と違う。

「ロリ巨乳メイドとかちょっとあざとくない?」

というあかりの感想。一方シャリはいいなーみたいな顔で見ている。今度作ってもらいなさい。


 ゴブリンキング待ちを素通りして二階へ。思い出したけど僕レベル1なんだよね。いまさら気にしてもしょうがないけど。シャリがみんなにプロテクションを掛ける。


「方針としてはこないだと同じで、できればボス前にレベルアップしたい」

「そのほうが効率いいわね」

「なるべく僕がとどめ刺す感じでお願い」

あ、そうそう。


「メイは無理しないでいいよ。どうせ僕がレベル上げるから」

「わかりました」

「ダーツの練習だと思って」

「はい」

にっこり微笑むロリ巨乳のメイドさん。安らぐ。妹の愛が激しすぎてこういう安らぎ系に飢えていたかも。


 通路を行く。扉の前で気配察知。バグベアっぽいな。攻撃力付与してもらう。扉を蹴り破る。この扉も毎回直ってるけどリポップするのかな。


 部屋の中には三体のバグベア。レベルアップには足りないかな。中に入ろうとすると。

「そこに落とし穴!」

あかりが叫ぶ。そういえばバグベアはこっちこないで投げ槍を構えている。


「元に戻れ!」

スコップ!を出す。僕の後ろでも防壁君が実体化する音。

 僕は腰から手斧を手に取った。

『今は飛び道具もあるんだよ』


 手斧使いに投擲が加算され攻撃力付与までされた恩恵てんこ盛りの手斧がバグベアに当たるとその胴体に深く食い込んだ。一撃では死なないか。でももう一投。バグベアが一体倒れる。

「マジックミサイル」」

六発の光の矢が飛んで一体のバグベアが倒れる。残り一体。

「えい!」

メイがダーツを投げる。なかなか当たらない。

「えい、えい、えい、えい」

なんかいっぱいあるな。防壁君の裏に大量に仕込んであるみたいだ。


 ダーツのチクチク攻撃にいら立ったバグベアがやって来た。そこに左手のスコップ!をぶん投げる。スコップ!がヒットしてよろけたバグベアが落とし穴に落ちた。投擲の恩恵なかなか優秀だな。


「ダンジョンそのものにも罠があるんだね」

「こういうのはマッピングで判るのよ」

やっぱり恩恵って基本チートなんだな。


 あと、同じコマンドでアイテム化が戻っちゃうの不便だからそれぞれ別のワードでアイテム化することにしよう。事故の元だし。



「ここに何かある!」

あかりが言う。


「マッピング?」

「そう。隠し扉かな」

壁の一部が開くらしい。攻撃力付与が継続中の僕が蹴り開ける。

「お邪魔しまーす」


 バグベアが6体ほど。車座に座ってなんか飲んでいる。多分酒だろう。宴会中だった?

「えっと」

バグベアはびっくりしているが僕もびっくりしている。どうしよう。

ᛁ ᛍᚮᛘᛘᛆᚿᛑ ᛑᛂᛋᛐᚱᚮᛦ ᛘᛦ ᛂᚿᛂᛘᛁᛂᛋ ᚥᛁᛐᚼ ᚵᚱᛂᛆᛐ ᛔᚮᚥᛂᚱ ᛒᛂᛐᚥᛂᛂᚿ ᛚᛁᚵᚼᛐ ᛆᚿᛑ ᛑᛆᚱᚴᚿᛂᛋᛋ.・・

あかりが呪文の詠唱をスタートした。我に帰る。


 持ったままだったスコップ!をバグベアにぶん投げる。そして手斧も。

「メイ!防壁」

防壁君を展開させると、その裏からダーツを掴んで次々と投げた。メイも一緒になって投げる。最後に防壁君そのものをぶん投げる。普通なら持ち上げるのがやっとなんだけど投擲の恩恵があるので投げることはできるのだ。


 バグベアは混乱している。そこにシャリがメイスから麻痺光線を撃ち込む。紫色のオーラが一番手前のバグベアに当たるとそいつはそのまま凍り付いたように倒れる。そして。


「マジックストーム!」


 呪文が炸裂する。バグベアのキッチンだか飲み屋だかを魔法の刃が高速で切り刻んでいく。部屋の中が血しぶきで緑色に煙る。僕の体の奥から力が沸き上がってくる。

『レベルアップだ!』

恩恵はえっと。急いで念じる。


「レベルが上がったよ」

「おめでとうおにいちゃん」「おめでとう」「おめでとうございます」

姉妹が祝福してくれる。


「ちなみに恩恵はね……」

今回は罠スキルを取得した。これで宝箱が開けられる。このままシャリが力ずくで開けてたらそのうち首が飛んだり石の中にいかねない。


――


フィン:レベル2(up)(人間:転生者)

・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル(new)


シャリ:レベル5(人間)

・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性、催眠術


あかり:レベル6(エルフ:転生者)

・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒、マッピング


メイ:レベル2(人間:転生者)

・恩恵:衣装製作、アイテム化

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