第二部第二章 褒美の土地

107 レベルブースト

 ダンジョンの出口で例の恩恵検知器を使わせてもらい、確かにシャルロットがレベル1になっていることを確認。エリーさんも「おお」と驚愕している。シャルロットはなんだかよくわかってないが、終わったとは伝えておく。


 とりあえず課題は一つクリアしたのでメイの家に戻ろう。エリーさんには明日来てもらうことにしてとりあえず帰ってもらうことにした。いま一緒に城行くと話がおかしくなる。


・・


 さて問題はどうやってシャリとシャルロットを入れ替えるかだ。四人で案を出して検討する。


 エリーさんに何とかしてもらうという手もあるかもだけど、ばれるとかなり面倒なことになりそう。褒美をもらいに行ったときにスキを見て……ってわけにもいかないよな。


 あかりに空間転移で行けるか聞いてみたが、行ったことのない場所に転移するのは危ないみたい。いわゆる”石の中にいる”ってやつだ。考えるとこないだの大司教の部屋に飛んだのは結構リスキーだったな……


 考えると不思議なのは、どうしてシャルロットがシャリと友達だったのかというところなんだけどね。接点が全くないと思うんだけど。


「お城から城壁に出る秘密の通路があるんですよ。そこの出口でシャリと会ったんです」

「そこから入れない?」

「残念ながら中からしか開かないのです」


 そのぐらい何とかなるだろう。


「夜、行ってみよう」


・・


 深夜。四人で家を抜け出して城壁へ。


「開錠!」

僕が恩恵を使うと城壁の一部がゴトっと音を立てて開く。なんとかなった。


「狭いわね」

通路の中を見てあかりが言う。僕やメイでも腰をかがめないといけないぐらい。非常用なんだろうなこれ。


「それじゃ、僕とシャルロットで行ってくるよ。あかりとメイは待機してて、何かあったら陽動で騒ぎを起こして」

「騒ぎなら任せて」

「私も無問題です」

この二人が騒ぎを起こすとなると不安しかない。王都の安全のために失敗しないようにしないと。


・・


 狭い通路だけど小さいシャルロットは問題ないみたい。僕は頭を打たないように気をつけて歩く。これは大人だと大変だな。おそらく城壁の中なのだろう。上がったり下がったりしながら続いている。僕が恩恵で炎を出して照明の代わりにする。


 やがて細い通路は突き当りになった。


 シャルロットは無言で壁に頭を押し当てる。音でも聞いているのか。しばらくして壁の一角を押す。突き当りの壁が音もなく手前に開いた。手馴れた様子。


 壁が開くとそこにはもう一つの壁。というか木の板だな。シャルロットが顔を押し当てている。今度は覗き穴でもあるのか。

「大丈夫みたいね」

小声でそう言ってシャルロットが木の板を押すと左右にゆっくりと開く。その向こうには部屋があった。シャルロットの後について部屋に入る。


 城の中と思われる、使われていない部屋に出てきた。狭いのでおそらくは倉庫か何かだろう。壁の一面が戸棚になっていたのだけど、その一つから出てきたのだ。

『こりゃとんだセキュリティホールだな』

たぶん脱出用なんだろうけどね。昔作ったものだけどみんな忘れているのかもしれない。


「私の部屋はこの近くです」

シャルロットが小声で言うと扉の近くで耳を澄ませている。僕も気配察知を使うが廊下に人の気配はない。


 二人でそっと移動。誰もいない通路。衛兵とかいないのかなと思うけどここはプライベートなゾーンなのかも。

 一つの扉の前でシャルロットが立ち止まった。この間来た部屋だ。そのまま扉を押すが開かない。僕は右手のひらを上げてシャルロットを制止する。


『開錠!』

鍵が開くカチっという音。


シャルロットが扉をそっと押すと、ゆっくりと扉が開く。


(・・ おにいちゃん! ・・)


いままで寝ていたのだろう、寝間着姿のシャリが裸足でこっちに駆け寄ってくる。僕とシャルロットはさっさと中に入り、そっと扉を閉めた。


「シャリ!」

「おにいちゃん!」


 シャリをぎゅっと抱きしめる。兄妹感動の再会。二日もたっていないのにすごく久しぶりな気がする。シャリが聞いてくる。


「シャルロットは?」

「大丈夫。レベル上がったから」

「さすがね。おにいちゃん!」


 シャルロットのほうを見る。なんかニコニコしている。


「それじゃ二人とも服を交換して」


・・


 シャリの脱いだ寝間着にシャルロット姫が着替えている間は、一応見ないようにした。姉でも妹でもないからね。


「約束の日にまた来るから」

「ありがとうおにいさん」

「おにいさん?」

シャリが怪訝そうにシャルロットを見るが、シャルロットはニコニコしたまま。


「そういえば、シャルロットの恩恵はなんだった?もちろん聞いてよかったらだけど」

「おにいさんなら教えてあげますよ」


 シャルロットが僕の前に立つ。

「ちょっと屈んでもらえますか?」


 僕はシャルロットの顔の高さまで頭を下げる。

 シャルロットは顔を近づけて、僕の頬に頭を寄せる。


 チュッ!


 シャルロットが僕の頬にキスをした。体の奥から力がこみあげてくる。なにか身に覚えのある感覚。自分のレベルを確認する。レベル4のはずだけど……


「レベルが上がってる!」


 僕はレベル5になっていた。でも特に新しい恩恵は感じないな。


 シャルロットが説明してくれる。

「私は相手のレベルを一時的に上げる恩恵を授かりました」


――

挿絵はシャルロットです

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652971444876

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