109 川辺の土地

 ようやく部屋に戻った。まずは王宮でシャリがどうしていたかとか聞こうと思ったんだけど。


「……眠い」


 ということで、とりあえず明日。


・・


「フィン様とシャリ様にお客様ですよ」

メイの家の使用人の人の声で目が覚めた。


「誰だろう……」こんな朝早くから。

っていうか、この世界には時計がないから何時かわかんないんだけどね。抱きついているシャリをはがして起きる。

「シャリ、お客さんだって」


「おはようございます」

「今起きたのか。もう昼近いぞ」

エリーさんが入り口にきている。


「それでなんの用ですか?」

エリーさんはグッと僕の目の前に来た。顔を10cmまで寄せてくる。

「どうやって入れ替わった?」


 どうしようかな。


「何を言ってるのかよくわかりませんが、ここにいるのは前からうちのシャリですよ」

「そういうのはいいから!」

「なんのことかさっぱり」


 とりあえず、王女に聞いてくださいということで帰ってもらう。


・・


 それで改めてなんだけど。シャリのお城での日常について。まあ一日だけどね。


「お城では寝てただけだから」

ここまで引っ張ってこれだけだったけど、これは前振りみたいなもんだから。


「それでシャリ、レベル7の恩恵はどうなった?」

シャリはどや顔でニヤッとする。


「おにいちゃん、目をつぶって」

目をつぶる。


「にゃー」


 足元から猫の鳴き声。目を開けると真っ白い子猫がいた。足元にすり寄って来る。


「「きゃぁカワイイ!」」

あかりとメイが叫んだ。


「ところでシャリは?」


 シュポンという音がして子猫が元のシャリに戻った。


「変身できるようになったの!」


 まじですか。モフモフ触っていい?


・・


「それで、説明してくれるって言うのはどうなったのよ?」

あかりがジト目。


「実は……」

王女の恩恵のレベルブーストの説明をする。


「インチキ専用の恩恵ね。それはともかく、なんでお兄ちゃんは今レベル2なの?」

「王女がもう1レベル上げてくれないと騒ぐって脅すから」

「お兄ちゃんほんと女の子相手だと見境ないわね」

「だってしょうがないじゃん」

「私が騒いだってレベル上げてくれないじゃない!」

そうだっけ?


「まあまあ、あかりちゃん、フィンも悪気があったわけじゃないから」

「悪気がないなら本気ってことでしょ!」


 とりあえず僕が早急にレベリングするということで一応収拾。


 というか、僕たちは大司教の事件以降全然冒険をしてないのだ。唯一やったのがダンジョンの掃除ぐらい。スライム退治ってラノベの最初だよね。これではただの日常系だ。


「明後日お城に行くからその後でね」

「それなんですけど」

メイが会話に入ってきた。


「ご褒美がもらえるんですよね。フィンは何か欲しいものがあるんですか?」

「いやー、特に思いつかないな。あんまり関わり合いになりたくないし」

僕を見るメイの目がキラキラしている。


「それなら、私、欲しいものがあるんです!」



 二日後。王宮。


 パウル司教がいかにも厳かな感じで例の彫刻を取り出して台に置くと、シャルロット姫がマスクを外して近寄る。そっと手を触れる。


 光が一つ浮かぶ。


「これでもう大丈夫です」

司教が宣言した。王はうなずく。


「よくやった。褒美は何が良い?」

「神の道に沿うことこそが私の務めです」

司教が言うと、なんかよくわかんないけど王はうなづく。事前に取り決めでもあるんだろう。


「して、その者たちはなにを所望する?」

僕らの方を見る。打合せ通り僕らは頭を下げて司教にしゃべってもらう。


「今回、この者たちの代理任として、王都ハーネス商会のメイ殿をお連れいたしました」


 後ろからメイが出てきた。


「ハーネス商会はこの者たちの代理人に任じられました。こちらお願いがあります」

「言ってみよ」

「まとまった土地をいただけませんか。荒れ地でよいので。川のそばで」

「何に使うのか教えてくれるか」

「工房を作ります」


 工房なら王都でいいのではとか聞かれたが、メイはそれでは狭いと回答。王家で管理する土地で使えるものがあるか調べることになった。



「で、ここになったの?」

「そうです!」

メイは嬉しそう。岩が転がり、木が茂る岩山の荒地。比較的王都に近いものの、作物が取れるような土地ではないので放っておかれたのかな。狩りにはよさそうだけど。


「まず探検しましょう!」

「にゃー」

白猫になったシャリがしゅるっと僕の肩の上に乗る。


「シャリちゃんはおねえちゃんが抱っこしてあげるよ」

あかりが手を伸ばす。

「ミギャァ」

「先にレベル上がったんだからそのぐらいいいでしょ」

「にゃぁ」

あかりがシャリ(猫)を胸に抱いて歩いている。柔らかそうなところに埋まるフカフカした毛皮。なんか尊い。


 歩きながらメイに聞く。

「なんで川の近くの土地がよかったの?」

船着き場でも作るのかと思ったけど荒地すぎてそういう感じでもないんだよね。


「んーっと冷却用ですかね」

「なんの?」

「まだ秘密です」

「まあいいけど」

あんまりろくなことじゃなさそう。


「お兄ちゃん、あそこに洞窟が!」

「ダンジョンかな?」

いやでも、ダンジョンだったら貴重な資源だからくれるわけないよな。


「せっかくだからちょっと入ってみましょ」


 シャリ(猫)を抱いたまま、あかりはズカズカと洞窟に入っていく。けっこうでかい洞窟だな。直径3mぐらいはある。


「あかりちゃんの物怖じしないところって尊敬しちゃいます」

「僕たちも行こうか」

ダンジョンじゃないとすると明かりが必要だな。松明でも準備するか。


 ん?


「……ぅぁー」

洞窟の奥から声が。


「うあーーーー」

白猫を抱えたあかりが走って出てきた。


――

挿絵は手に入れた土地を見に来たメイちゃん

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330653054194591

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る