第三章 激闘ホブゴブリン

第8話 転生者

 食後、テーブルについてあかり(自称僕の妹:エルフの女の子)と話し合いだ。立会人としてシャリが僕の横で見張っている。


「だから、私は、山峰あかり。日本人の16歳の女子高生なの」

「エルフに見えるんだけど」

「お兄ちゃんも日本から来たんでしょ」

「なんでわかるの?」

「私には鑑定の恩恵があるから」

え、まじ?


「じゃあ僕は誰なの?」

「日本人で多分18歳ぐらい」

「日本での名前は?」

「鑑定って存在としてはわかるんだけど文字情報は見えないのよ」

うーん。

「お兄ちゃんの日本での名前を教えてよ?」

逆に聞かれる。

「うーん、それがわかんないんだよ」

「え?」


 そう、僕は日本の大学生だったことは思い出したんだけど、個人情報的なものが思い出せないのだ。


 そして、あかりの兄は日本の大学生だったのだが、行方不明になったとのこと。

「お兄さんの大学はどこだったの?」

「TK大よ」

知ってはいるがなんかピンとこない。見れば思い出すかもしれないけど……


「お兄ちゃん全然連絡付かないし、お兄ちゃんの大学の友達もわからないって。ちょっと探検に行くとか連絡がきたっきりで授業にも来てないって言われて」

「ふむふむ」

「だからね、お兄ちゃんのパソコンをハッキングしてブラウザの履歴を調べたのよ」

「やめてあげて」

「それで、お兄ちゃんがとある神社の伝承について調べてたのでそこに行ってみたの。そしたら」

「そしたら?」

「なんかよくわかんないけど、転生してたのよ。気が付いたのは何年か前で」

「えっと、あかりさん?は何歳なんですか?」

「だからお兄ちゃん、あかりは16歳だって言ってるでしょ」

「いや、この世界では何歳?」

「女の子に歳をきくの?」

「え?」



 時系列がずれているが、そもそも転生で時系列があっているのかどうかなんてわからないし、ていうかこの子が僕の妹である確証もない。


 それまで黙っていたシャリが口を開く。

「まあ、あかりさんは16歳なんですよね」

「そうよ」

「じゃあ、おねえちゃん、って呼んでもいいですか?」

「いいわよシャリちゃん」

「なんで仲良くなってるの?」

「「だって私達、おにいちゃんの妹だから」」

そこハモらせる必要ある?


「ええとですね、あかりさん」

「あかり」

「だって16歳ですよね。僕13歳ですから」

「お兄ちゃんは18歳なんだよ」

「えーっと、じゃあお姉ちゃん?」

「なあに、お兄ちゃん」

なんかもう、あかりでいいや。


「それで、あかりは何でここに来たの?」

「お兄ちゃんを探して、この国の転生者をかたっぱしから鑑定で調べてるところだったの」

まじですか。この国の人口は何人いるんですか。

「えっと、転生者って他にもいるの?」

「まあいるわよ。千人に一人より少ないけど」

「じゃあ僕が兄じゃない可能性もなくない?」

「んー、確かに他にもいたんだけど、私、年下が好きなの」

『わからない』


 とりあえず、あかりの話を聞くことでこの国の情報を知ることはできた。この国はバリザード王国。人口は300万人ぐらいとのこと。ちなみにエルフはこの国の隣のエルフの森に棲んでるらしい。

「エルフは長生きだから子供が少ないのでエルフに転生するというのはレアなのよ」そこなんでどや顔?


 ところであかりは身長が160cmぐらいある。僕が150cmぐらいだから僕より背が高い。シャリは135cmぐらい。

「エルフって背が低いんだと思ってた」

「RPGのエルフは華奢で背が低いのが多いけどこれはD&Dのエルフがそうだったからで、指輪物語のエルフは人間より背が高いのよ。あ、D&Dってダンジョンズ&ドラゴンズのことね」

「なんか詳しくない?」

「まあね、それでね!」


 長いセリフをしゃべっていたあかりは息を継いで、また話し出す。

「私、ダンジョンに行きたいの!」


「だんじょん?」

「そう」

「魔物がリポップして、階層ボスがいて、一番下にダンジョンボスがいるやつ?」

「まあそういうのもあるかもね」

「ダンジョンボスをやっつけるとダンジョンコアが手に入るとか?」

「うーん、それはちょっとファンタジーよね」

なんか違うのか?ていうか、エルフがファンタジーを否定するなよ。


「元々D&Dのダンジョンはモンスターの住み着いた穴って感じなんだけどやっぱりJRPGはウィザードリーの影響が大きいわよね。ラノベのダンジョンもウィザードリー的世界観が多いんだけどこれは読者にJRPGの世界観を流用することで世界観の導入ハードルを下げるという効果があるのよ。ラノベ全体で世界観を共有することでいわばパブリックドメイン的なOSとしてのダンジョンが……」

「あかり、ストップ」

「で、とにかくダンジョンを探すのよ」

「なんでだよ」

「決まってるじゃない!」


 あかりは僕を正面から見る。


「日本に帰るのよ!」


 そうかー日本かー。あまりピンとこないのは僕が知識としての日本を知っていても個人の思い出がほとんどないからだろう。


「やっぱり、あかりは日本に帰りたいか」

「まあね、この世界も悪くはないけどね。私はエルフだから1000歳まで若いままだしそれはいいんだけど、でも全般的に貧しいのよね。ご飯もおいしくはないしウォシュレットもないしアニメもラノベもゲームもスマホもないし友達もいないし」

「なんか日本でも友達少なそうだけど」

「女子高生をなめるんじゃないのよ。これでも表面的な友達はたくさんいるのよ」


「えっと、あかりおねえちゃん」

「なあに、シャリちゃん」

「シャリ、妹だけど、お友達になってあげる」

「ありがとう!初めて友達ができたわ!」


 で、ダンジョンはどうすんだよ。



 あかりによると、日本に帰る方法を調べてはみたものの皆目見当がつかないとのこと。

「誰かが呼び出したとかならその人に聞く方法もあると思うんだけどね」

「あかりはこの世界に来る前に白い部屋で神様にチートスキルとかもらった感じ?」

「ないわよそんなの」

「そうか。僕もだ」


 うーん、なんかないかな。

「じゃあクラス転移とか」

「同級生にも会ったことない」

そうかー。


「でも私、トラックにも轢かれてないし、そのままするっと元の世界に戻っても不思議はないと思うのよね」

「僕たち、転移じゃなくて転生じゃね?」

「水槽の脳って知ってる?あるいは胡蝶の夢」

その可能性もちょっと考えたことはある。いま僕たちはVRMMOみたいな世界にとらわれている説。だとすると……僕はシャリを見る。シャリが実はNPCということは?あるいは哲学的ゾンビ?いや、転生した僕たちのほうがスワンプマン?


 僕は頭を振る。認識できないことを考えてもしょうがない。そもそも僕たちがいた”元の世界”がコンピューターシミュレーションでないという証拠だってないのだ。


「まあ、まあ何が起きてるかわかんないから何があっても不思議はないな」

「ヒントとしては、あの神社しかないのよ」

「その神社についてなにか覚えてる?」

「社の裏に洞穴があってね、しめ縄が張ってあって」

「なんかやばそう」

「で、そこ入った記憶はあるんだけど」

「よく入ったなそんなとこ」

「だって、お兄ちゃんが……」

ああ、そうだった。ごめん。


「まあ、今考えるとあれもダンジョンだったかもしれないと思うのよ」

「なるほど」

「だから、この世界にも日本に通じるダンジョンがあるかもしれないでしょ」

「可能性はあるな」

「だからね、この世界のすべてのダンジョンに潜るのよ」


 根性あるな。この子。


――

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