127 ダンジョンの管理者

「このダンジョンって、蜘蛛の世界に繋がってるのでは?」

「それって、蜘蛛ですか?みたいな?」

「いやそうじゃなくて」

「スターシップトルーパー?」

「やっぱり土蜘蛛かもしれませんよ」

メイが会話に入ってきた。


「その土蜘蛛って何?」

「日本書紀に出てくるんですよ」

「詳しくない?」

「基本ですけど」

そうなん?


 しかし、この先どうするかな。

 ダンジョンの壁は見渡す限り蜘蛛の巣で覆われている。また不意打ちを食らいそうだ。


「蜘蛛にもバルサンって効くのかな?」


・・


 風の恩恵を使って煙を前に送り込みながら前進。手に持った殺虫発煙筒から盛大な煙が噴き出している。でも不思議なことに煙はそのうち消えちゃうんだよね。ダンジョンって意外と換気がいいのだ。ゴミも落ちていないし、トイレの跡もないんだよな。


 さっきから僕のレベルが小刻みに上がっていく。レベル5に上がれるほどではなくほんの微かだけど、どうやら蜘蛛にも殺虫剤は効くらしい。


 そして、大きな両開きの扉が現れた。


「ボス部屋ですね」

「えっ」

ポーズを取ろうとしたあかりがつまづいた。


・・


 攻撃、防御にステータス向上とバフをてんこ盛りして扉を蹴破。

 そこは山の中だった。


「幻覚?じゃないな」


 後ろを見ると、何もない空間に扉が開いている。


 気配察知に反応。そして木々の間からさっきの大蜘蛛が現れる。六体ほど。

「来た!」

「マジックストーム!」


 三体ほどの大蜘蛛が魔法に巻き込まれる。

「縮地!』

一体の蜘蛛を串刺しにする。こいつらそんな強くないぞ。


 シャリが加速して一体をボコボコに殴る。もう一体がはというと、マジックミサイルとメイの飛び道具で粉砕されたところ。


「ボスにしては弱いな」

「犬頭を思い出しますね」

「本当のボスがいるってこと?」


「おにいちゃん、なにか来る!」

シャリが叫んだ。地面がガタガタと揺れだした。気配察知にもなにかの反応。巨大なものが近づいている。


「気をつけろ」

力場障壁バリアー!」


 シャリが力場障壁バリアー!を展開したところに、山の峰を越えて巨大な蛇が襲いかかってきた。どのぐらいでかいかというと電車が一編成突っ込んできた感じ。開けた口は人間を一飲みにできそうだ。蛇の頭が力場障壁バリアー!にぶつかって止まる。


「蜘蛛じゃなくて大蛇?」

ていうか、本当に山ほどのサイズがあるぞ。前の巨大ミミズよりでかいかも。

「もっと来てます」

山の峰から巨大な蛇の頭が次々と現れる。果てしなくでかいぞ。


「これって、ヒドラ?」

「ヤマタノオロチですよ」

「まじで!」

「土蜘蛛っていうのは大和朝廷によって滅ぼされた土着の豪族のことを指しているわけなんですが一方ヤマタノオロチというの同じくですね」

「なるほど分かったから!」

後ろを振り返るが入ってきた扉は消えている。ボスを倒さないと出られないのか。


 僕らを取り巻くように幾つもの巨大な蛇の頭が取り巻いている。この状態、力場障壁バリアーが切れたら最後なのでは。


「えーっと、ヤマタノオロチって酒を飲ませるんだっけ?なんかない?」

「爆弾ならありますけど」

メイがアイテム化していた爆弾の樽を実体化した。5樽ある。


「樽だから酒みたいなもんかな」


・・


 あかりが樽に手を当てて転移魔法を唱える。そういえば自分以外の物を送ることも出来るんだった。

 僕らに威嚇するように力場障壁バリアーの外で口を開いていた大蛇の頭がいきなり爆発した。血と肉が飛び散る。


 そしてもう一つ、もう一つと、最終的に五つの頭が爆発した。動く頭は三つまで減った。


「シャリ、行くぞ!」

僕とシャリに巨大化を使う。


 十倍ほどの大きさになったシャリが、やはり巨大な大蛇にメイスで殴りかかった。元の大きさなら一飲みされるところだが今なら問題ない。

 シャリに後ろから噛みつこうとしている頭に狙いをつける。せーの。


『縮地!』


 大蛇の頭に槍を突き通した。巨大化した槍でグリグリとダメージを与える。何度か噛みつかれそうになったが槍で刺したまま盾で鼻先を殴ると頭は動かなくなった。


「マジックボルト!」


 最後の頭が襲ってくるところをあかりの魔法が迎え撃った。そこに加速したシャリが殴り掛かる。メイスの勢いで巨大な蛇の頭が跳ね上げられる。


「スイッチで縮地で突撃!」


 巨大化した槍を大蛇の頭に突き通す。体の奥から込み上げる感触。レベルアップだ!


・・


 八つ頭の巨大蛇から剣がドロップした。本当にヤマタノオロチだったのかも。ぐにゃぐにゃっとした見た目の剣。


「だとすると、これは草薙剣?」

「ですかね」

「誰も剣使わないから、合成素材にしちゃっていいかな」


 微妙に罰当たりな感じがするけど僕の槍に混ぜてみた。合成はうまくいったようで僕の槍が神秘的に光出す。


 山の中を歩き回ると、山頂に祠が見えた。扉を開いてみると、下に行く階段。


「みんな、どうする?」

「管理者に会うんでしょ」

「そうは言ったけど……」

「行こう、おにいちゃん」


・・


 階段を歩きながら話をする。


「メイもあかりも、前世の事ってちゃんと覚えてるんだよね」

「うん」「そうですけど」

「それじゃ、前世を思い出す前のこの世界の記憶ってどう?」

「記憶としてはありますよ」

メイが答える。

「でも、人格としては前世の人ですね。この世界の両親に会ってもあんまり肉親って感じがしないです」

「私もそうかな」

あかりも同意する。

「僕だけ違うんだよね。なんでだろう」


 僕は転生前のことは覚えていないのだ。知識としては前世である日本のいろんな事は知っているのだけど、どこに住んでいてどういうことをしていたとか覚えていない。


 階段が終わり、外に出ると、そこは森だった。


 山の中と森とで何が違うのかというと微妙なんだけど、とりあえず地面が平らだし、木々も手入れをされている感じがする。なんというか「ちゃんとしている」感じがするのだ。

 そして木々の間に踏みわけ道が続いているのでそこを歩いている。


 唐突に森が終わって広場に出た。やはり祠があり、その前に何かいる。動物のような姿、というか、キツネだ。

「いらっしゃい。お客さんかな」

「キツネがしゃべった!」


――

挿絵はメイちゃんです

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330653839358081

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