後日談・終 妹
途中で土ぼこりを洗車をした後、ようやく家まで戻って来た。
王女が参考資料に本が欲しいということで大きな本屋に寄ったり、メイがこっちの食料品を大量に買い込んだりとかしてかなり大変だった。
王女の本だけでもかなりの量があったので、あかりの部屋にあった段ボール箱に入れておく。
「それではレベルアップパーティーですよ!」
今日はチャイナドレスのメイ(エルフ)が開会を宣言。
「シャリ、あかり、レベルアップおめでとう!」
「無礼講よ」
「シャリはいつまでその格好しているの?」
「えへへ」
シャリは金髪で小柄な少女に変身したままだ。白いワンピースがかわいい。シャリとシャルロットが並んでいると双子みたいに見える。
「今日のメインディッシュはワイバーンのローストだよ!」
「わー!」
盛り上がるパーティー会場。
「ワイバーンってやっぱりおいしいよね」
手をベタベタにしてほおばる王女。もう誰もヴィーガンについて突っ込まない。
「明日で帰らなきゃいけないなんて残念です」
「また遊びに来てよメイ」
「今度はフィンが向こうの世界に来てくださいよ」
エルフのメイがにっこりと言う。
「行こうよおにいちゃん」
「行こうね。お兄ちゃん」
「どうやって?」
「お兄ちゃんが考えてよ」
妹たちはあいかわらずだ。
・・
「ちょっとパソコン貸してくれますか」
「いいけど」
メイにノートPCを開いて渡す。
「なるほどですね」
「って何見てるの?あ、ブラウザ履歴見ちゃダメだって」
「おにいさん、それはなんですか?」
王女が興味深げにパソコンを指さした。
「これはいろんなものを調べる箱っていうか……」
「じゃあ、あれは?」
部屋の中の物を興味深げに見渡しながら、王女がテレビを指さしている。
「あれはテレビと言って、世の中で起きていることが表示される機械なんだよ」
リモコンでテレビをつけると、画面には災害時に出るL型枠が表示されている。なんか事件でもあったのかな。
「本日富士山麓に落下した隕石の被害について、政府は対策本部を設置、自衛隊を派遣して……」
あー
「ちょっとこれ見てくださいよ」
ノートPCを見ていたメイがみんなに画面を見せると、表示されていた動画サイトにタイトルが大きく映る。
「湖畔で撮影された謎の巨人。隕石に何らかの関係か?」
「おにいちゃんだ!」
それ、顔映ってないよね?
◇
順番ということで、今日はシャリがあかりの部屋で二人で寝ることになった。
「シャリの隣で寝るなんて久しぶりね」
あかり(29)がシャリに言った。シャリは金髪の少女の姿のままだ。
「こんなにかわいい妹ができるとかうれしいわ」
「おにいちゃんは、シャリのおにいちゃんだからね」
「いいわよ。あなたはお兄ちゃんの血のつながった妹なんだから、妹の座は譲るわ」
あかりは口角を上げてほほ笑む。
「私は生物学的には妹じゃないから」
「なんかずるいこと考えてるでしょ、おねえちゃん」
シャリがあかりを上目遣いににらむ。
「年下で義理のお兄ちゃんとか最高よね」
「ショタコンおねえちゃんには、おにいちゃんは渡さないから」
「大人の魅力で勝負よ」
「シャリだって大人に変身できるもん」
「大事なのは人間力だから」
◇
今日の夜はなぜかメイ(エルフ)とシャルロットと一緒に寝ることになった。順列組み合わせ?
しかし、向こうの世界に行くとかどうしたらいいんだろう。異世界トラックにはねられるのも嫌だし。行きっぱなしじゃなくてちゃんと戻って来たいし……
「ねえフィン……」
お兄ちゃんが考えてよって言われても、やっぱりとりあえずはレベルを上げてそういう恩恵を取るしか、やっぱりあかりに……
「ねえ、お兄ちゃん」
気が付くと、目の前にエルフの顔があった。一瞬あかりかと思うけど、メイだよな。
「なんだよ、メイ。お前は妹じゃないだろ」
「呼んでも答えないから、どうしたのかなと思って」
「いや、ちょっと考え事をしてたんだけど……」
「そう?」
メイはエルフの美しい顔をすこし傾げる。
「あなた、フィンじゃないでしょ」
「……なんでそう思った?」
「名前を呼ばれた時の反応がちょっと遅れてる」
うーん。
「名前なんて記号だよ、メイ」
「そうだね、お兄ちゃん」
「だからお前は妹じゃないだろ」
エルフの口元が軽く微笑む。
「フィンなら私のこと好きだったよね?」
「どうだったっけな」
「やっぱり、フィンじゃないんだ」
「誘導尋問だな……」
エルフのきれいな瞳がこっちを見ている。
「それじゃ君はメイなのかい」
「名前なんて記号なんでしょ」
メイがおもむろに右手を伸ばしてきた。頭の後ろを押さえられる。
エルフの整った顔が目の前に迫ってくる。唇と唇がそっと合わさると、そこを伝わって何かの知識が頭の中に流れ込んできた。
ゆっくりと唇を離して、目の前の顔を見つめる。
「メイは黒髪の方が似合うな」
目の前のエルフの少女が嬉しそうにはにかんだ。
「だったら向こうの世界に会いに来て、兄さん」
「さっきからその呼び方なんなんだよ」
「その歳ならどう見ても私の方が妹でしょ」
「二人ともずいぶん楽しそうじゃない」
後ろから声がした。王女がまだ起きてた。
「子供は寝なさい」
「えー、つまんない」
フィン:レベル1
・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル、炎、クリーン、テイム(妖精)、言語理解、耐熱、隠ぺい、盾術、力持ち、覚醒、突撃、予知、解錠、反射、恩恵奪取、メッセージ、ライト、騎乗、スイッチ、疾走、跳躍、水、氷、毒無効、毒消し、巨大化、縮小化、風、土、クリティカルヒット、環境耐性、タイムストップ、召喚、レベル預かり、恩恵譲渡、料理、こん棒、時空構造理解(new)
◇
「それじゃ帰りますね。また会いましょう」
段ボールを抱えたエルフが名残惜しそうに別れの挨拶をしている。
王女にも本を詰めた重たい段ボール箱を渡す。
「それは昨日買った資料だから。役に立てて」
「いろいろありがとう」
王女が代わりに何かを手の中に握らせてきた。
「おにいさん、それプレゼントね」
「えーっと、ありがとうシャルロット。メイも元気で」
「メイもシャルロットも元気でねー」
「またねーメイちゃん、シャルロット」
「ばいばいーまたねー」
三人が見守る中、エルフ姿のメイと白いドレスのシャルロットの姿が光に包まれて消えた。
「行っちゃったねー」
「メイっていつも元気よね」
「あかりがそれ言う?」
「ところでおにいちゃん、シャルロットに何もらったの?」
「えっと、これ」
手を開くと指輪が現れた。大きな宝石が付いている。
「鑑定……これダイヤよ。大きいわね」
「すごーい」
「っていうか、どうしたらいいかな」
「もらったんだからお兄ちゃんの好きにしていいんじゃない。売れば?」
「このサイズだと億単位かも。もうちょっと気軽に換金できるものくれればいいのに」
「それならあるわよ」
あかりの部屋の段ボール箱からいくつも札束が出てくる。
「同人誌買った残りだけど、いらないからってもらった」
「すごいじゃん」
「それじゃ、こっちの段ボール箱は何?」
「それはだめ!」
でも見覚えある箱だよな。持った瞬間ずっしりと重い。思わず手から落としてしまうと、中から本が散らばり出てきた。
「あれ?これって王女に買ってあげた参考用の本だ」
「え?」
「ということは、さっきお土産に渡したのはなんだったんだろう?」
「……大変!」
◇
「ようやく帰ってきた!」
メイとシャルロット王女が秘密基地の転送ルームに現れた。
「私ちょっと
「はい、行ってらっしゃい」
メイがいつもの眼鏡をかけた姿で戻ってくると、王女はちょうどお土産の箱を開けていたところ。
「あれ?それ、なんですか」
「なんだろう。薄い本の山なんだけど」
二人で薄い本をしばらく読みふける。
「ずいぶんエチエチですね。しかもおねショタばっかり」
「なんでこれをお兄さんがくれたのかな」
メイは王女と顔を見合わせた。
「あかりちゃんのコレクションと間違えたんじゃないですかね」
「あー、どうしよっか」
王女のちょっと困った表情を見て、メイは軽く微笑んで言う。
「すぐに取りに来ますよ」
こっちにもかわいい妹が待ってるんだから。だよね、兄さん。
――
妹ダン後日談 三泊四日・日本の旅 おしまい
妹ダンお読みいただきありがとうございました!
挿絵:ちょっと大人っぽい変身シャリちゃん
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330668469786676
~~~
なおカクヨムコン9には作者新作の妹ラブコメが参加しております。
こちらもぜひよろしくお願いしします!
「双子の義妹のどちらかがベッドにもぐりこんでくる」
5秒でわかるあらすじはこちら
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330667888952008
妹ダン〜転生チートで妹にレベル譲渡してダンジョンを攻略します! やまもりやもり🦎 @yamamoriyamori
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