第55話
「まず、私達は今非常にマズい状況にある」
それは拓海にも理解できる。薬で眠らされて、起きたら見知らぬ部屋にいて、全裸で縛られていれば誰だってマズいと思う。
「このまま何もしなければ、私達はあの女達に間違いなく殺されるだろう」
「殺される」その日常離れしたワードは、このような異常な状況にあれど、拓海の頭にはすっと入っては来なかった。ただ、胸の内の不安がズシリと大きくなったのは確かだ。
「殺されるって……どうして?」
拓海には自分が、そして達山が殺されるその理由がわからない。拓海達はあの夜、ただ困っていた良子を助けただけだ。村を訪れたのはあくまで偶然であり、もちろん初めてである。村人達に恨まれる覚えは無い。拓海の脳裏に、人身売買や臓器売買という言葉が浮かんだ。
「君がどうやってこの村に来たのかは知らないが、ここが灯籠村と呼ばれている村だという事はわかるね?」
なるほど、葉月の家からどれだけ移動したのかはわからないが、この場所は村の中のどこかにあるらしい。
拓海は頷く。
「この村に来てから何日滞在した?」
「俺が気を失ってから、それ程時間が過ぎていないのであれば、今日で三日目のはずです」
「その間に村の中で一人でも男の姿を見たか?」
拓海は考えるまでもなく首を横に振る。
この村に来てから村人達の姿はちょくちょく見かけたが、一人も男性がいないという事は気になっていた。そう、一緒にこの村を訪れた茂木以外は。
その時、拓海はようやく茂木の存在を思い出した。
「達山さん! 茂木は……もう一人、俺以外に男がここに来ませんでしたか? 俺と同じ年くらいで、明るい茶髪の少しチャラい感じの!」
急に声をあげた拓海に驚き、達山は再び「しーっ」と拓海に小声を促す。拓海は思わず大きな声を出してしまった事にハッとし、申し訳なさそうに小さく頭を下げた。
「そうか、君は一人で来たわけじゃないのか。二人で来たのか? それとも他にも何人か?」
「いえ、二人です」
達山は何かを思い出すように目を細める。
「君がここに来る前に、私はこの部屋に連れてこられた。その時は数人の男がこの部屋にいたが、その中にいたのかもしれないな。いや……明るい茶髪はいなかったような……」
達山の答えは曖昧ではあったが、拓海は恐らくその中に茂木はいなかったであろうと考える。もし茂木がその中にいれば、きっと騒いだり喚いたりして印象に残っているはずだ。そうでなくとも、このような状況に置かれて茂木が誰かに話しかけないはずがない。
で、あるとすれば茂木は今どこにいるのか。拓海と同じように村人に眠らされ、別の部屋に監禁されているのか。もしくはまだ村のどこかにいるのか。それとも既に死んでいるか。
拓海は茂木の無事を祈った。茂木が友人であるからというのももちろんであるが、茂木がもしこの村から逃げ延びれば助けが来る可能性がある。しかし、なぜ茂木が急に消えたのかは拓海にはわからないが。
「その、茂木君だったかな? 彼がどうしているのかは知らないが、とりあえず話を続けていいかな?」
拓海は浅く息を吐き出して頷く。茂木の行方は気になるが、今はとにかく情報が欲しかった。
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