第2話
拓海はどこへ向かっているのかもわからぬまま車を走らせ続ける。今更来た道を引き返すのもどうかと思われた。最後に見たガソリンスタンドは一時間以上前だ。それまでガソリンが持つ保証はない。
もし、携帯の電波も届かない、対向車すら来ない山道でガス欠になったりしたらどうすればいいのだろうか。こんな不気味な場所で夜を明かすなど想像もしたくない拓海は、一刻も早くこの山道を抜け出し、コンビニ、いや、信号でも街灯でもいいから人口の明かりを見たかった。
助手席に座る茂木は拓海の気も知らずにのんきに流行歌を鼻歌で口ずさんでいるが、拓海にとっては今はそんな茂木の存在ですらありがたい。一人であれば不安は更に何倍も大きかったであろう。
「今日行った混浴さぁ、おっさんと爺さんしかいなかったじゃん。いい歳してとんだスケベ供だよな」
ナンパ目的の茂木が言えた義理ではないと思ったが、拓海も正直そう思った。
二人が最初に着いた混浴温泉の脱衣所から出た時、そこは露天である事以外は、ただの男湯と変わりない光景が広がっていて愕然とした。待っていればいずれナンパ待ちの若い女でも入ってくるのではないかと二時間ほど温泉から出たり入ったりしながら粘ったのだが、結局入ってきた女性は地元民らしき老婆と、還暦を過ぎているだろう主婦らしき一団だけであった。
拓海と茂木は諦めて温泉を出たが、二人が温泉に来た時に既にいたおっさん連中は、まるで若い女性が入ってくるまで出ないと覚悟しているかのように、温泉の縁に腰かけていた。
「そうだなぁ」
いい歳した男がそこまでして若い女の裸が見たいものだろうか。拓海は先日ワイドショーで報じられた、六十過ぎの政治家が二十代の女性と不倫していたというニュースを思い出した。男の性欲はきっと死ぬまで尽きないのだろう。
拓海も桜子と付き合っていた頃は、桜子とセックスがしたくて仕方がなかった。夏の薄着の桜子を脱がしたいと思ったし、クリスマスに良いムードになった時も桜子の体を求めたかった。あの白い肌に指を這わせ、桜子の事をもっとよく知りたいと思った。酒の席で茂木が茜と頻繁にセックスをしていると聞いて、密かに羨ましく思ったりもした。
生物としての本能がある限り、男とは本当にどうしようも無い生き物なのだ。
そして拓海も男であった。だからこそ桜子と別れざるを得なかった。もしかしたらもっと強引にいけば桜子も拓海を受け入れてくれたかもしれない。でも拓海はそんな事をしたくは無かった。桜子を悲しませたく無い————いや、桜子に嫌われるのが怖かったのだ。しかし別れて一月経った今でも、あの選択が正しかったのかはわからなかった。
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