灯籠の村
てるま@五分で読書発売中
第一章
第1話
強い雨の降りしきる中、一台の軽自動車が真っ暗な山道をヘッドライトで照らしながら走っていた。
山道はただでさえ暗闇に包まれているのに、雨がフロントガラスをひっきりなしに叩き続けているせいで視界は非常に悪い。それでも軽自動車は不気味な山道を早く抜けたがっているかのように、制限速度を超えて走り続ける。
「しかし、よく降るな」
軽自動車の運転手である
「マジありえねぇ。これ、どこ走ってんだよ」
拓海の悪友である
彼等は福岡にある大学の二年生で、夏休みを利用して拓海の車で二人旅をしている途中である。
当初の予定では福岡から高速道路を使って鹿児島まで行き、インターネットで検索した混浴温泉を巡った後に適当な漫画喫茶か民泊にでも泊まる予定だったのだが、暴露系掲示板に載っていた秘湯の混浴温泉を探しているうちに道に迷ってしまい、気がつくと見ず知らずの真っ暗な山道をただひたすらに走っていたというわけだ。
もうかれこれ三十分以上は対向車を見ていない。走れば走る程にドライバーである拓海の不安は募っていった。ガソリンメーターの表示は水平に近付き、残り僅かである事を示している。
「あーあ、やっぱり野郎二人で旅なんてするもんじゃないよな」
茂木はGPSによるナビゲーションを諦め、スマートフォンをジャケットのポケットにしまうと、代わりに取り出したマルボロメンソールのソフトパックからタバコを一本抜き、口に咥えて安っぽいジッポライターで火を点ける。
「吸うなら窓開けてくれ」
「こんな雨なのに開けられるかよ」
そう言いつつ、茂木は僅かに車の窓を開けた。
窓が開くと雨音がダバダバとより強く車内に響く。
「だいたいさぁ、
茂木は眉を顰め、不味そうにタバコの煙を吐き出す。煙は車内を漂うと僅かに開いた窓から吸い出され、暗闇の中に消えてゆく。
約一月前、まだ大学が夏休みに入る前に、茂木は当時付き合っていた彼女茜に浮気をされて別れた。それをきっかけに、茂木がこの混浴温泉ナンパ巡りの旅を企画したのだ。
「いや、それだったら半分は
実は拓海も茂木が茜と別れたばかりの頃に、当時付き合っていた彼女桜子と別れたのだ。理由は肉体関係の考え方の違いである。拓海と桜子は一年の頃にサークルの飲み会をきっかけに付き合い始めたのだが、二人は付き合い始めて一年が過ぎても、まだキスまでしかしてはいなかった。
拓海は年相応の性欲を持ち合わせていたために、あれこれ工夫して何度も桜子に肉体関係を迫ったが、桜子は頑として体を許してはくれなかった。拓海は桜子と別れたくは無かったのだが、いつまでもおあずけをくらったままでは辛く、このままの関係は互いに良くないと思い、拓海の方から別れを切り出したのだ。
拓海が別れ話を切り出した時、桜子は文句一つ言わずに悲しげな表情でそれを受け入れた。桜子も拓海の期待に応えられない事を負い目に思っていたのであろう。拓海の脳裏にはあの時の桜子の顔が未だに焼き付いており、それを忘れるために茂木の企画したこの旅に便乗したというわけだ。
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