第3話
長時間の運転の疲労もあるのだろうか、拓海は僅かに眠気を感じ、それを振り払うために軽く頭を振る。拓海が茂木にガムか飴を持っていないか聞こうとしたその時、茂木が口を開いた。
「おい、あれ」
拓海はブレーキペダルを軽く踏み、車の速度を落とす。茂木の指差した先には、一台の普通車がハザードランプを点けて路肩に停車している。遠目からだとハッキリとはわからないが、車はトヨタのカローラⅡだろうか、かなり古い車種のように見える。
「何やってんだ? ヤバい車じゃないよな」
拓海は久しぶりに自分達以外の車と遭遇して少し安心した半面、こんな夜中にこんな場所に車が停めてある事に気味の悪さを感じた。
「さぁな、取り敢えず道を聞こうぜ。この先行き止まりだったら最悪だしな」
拓海は茂木の言葉に賛同し、車を路肩に停めてハザードを点けると、後部座席に積んであった傘を引っ張り出す。万が一の時のために二人で行きたかったのだが、あいにく傘は小さなビニール傘が一本しか積んでいなかった。
「ビビってるなら俺が行こうか?」
「ビビってねぇよ。でも、もしヤバい奴だったら降りてきて助けろよ」
「さぁ、それはどうかな」
茂木は意地悪そうな笑みを浮かべる。しかし、いざという時に茂木が頼りになる男である事を拓海はよく知っていた。
拓海が傘をさしながら車を降りると、雨は先程よりも少し弱まっているようだ。傘を叩く雨音はそんなに強くはない。車に近付くと、窓をノックをする前に運転席のドアが開いた。そして傘をさしながら車から降りてきたのは品の良さそうな年配の女性であった。
「あのー、何かありましたか?」
拓海は少しだけ安心し、女性に尋ねた。
女性はどうやら困っていたらしく、拓海の顔を見てホッと胸を撫で下ろしている。
「止まってくれて助かりました。実は車が動かなくなってしまって」
女性はそう言うと、チラリと自分の乗っていた車を見た。
「大丈夫ですか? 良かったらちょっと見ましょうか?」
女性が頷いたのを確認し、拓海は傘を畳んで女性の車の運転席に乗り込む。車はマニュアル車であったが、拓海はマニュアル免許を持っていたので、クラッチを確認し、刺されたままのキーを捻った。しかし、エンジンはかからず、それから何度か挑戦してもやはりエンジンはかからない。
「大丈夫か?」
トラブルを察した茂木が、雨に濡れながらも車を降りて来てくれたようだ。
「エンジンがかからないんだ。バッテリーは上がってないみたいだけど……。お前、車に詳しかったっけ?」
拓海が聞くと、茂木は大袈裟なリアクションで首を横に振った。
「すいません。お力になれそうに無いです」
車を降り、拓海は女性に頭を下げる。
「いえいえ、でも参りましたねぇ……」
「あ、もし携帯持っていなかったら俺がJAF呼びましょうか?」
茂木がそう言ってスマートフォンを取り出したが、やはりこの辺りは電波が入らないようだ。
「この近くにどこかコンビニやガソリンスタンドはありませんか? 俺達が車でそこまで行って、助けを呼びますよ」
拓海がそう提案すると、女性は困ったように首を傾げる。
「うーん……。この辺にコンビニやガソリンスタンドは無いわねぇ」
その言葉に拓海は軽く絶望した。女性の言葉が正しいとすると、今来た山道をずっと引き返さねばならないかもしれない。そうなると、途中でガス欠になる可能性が高かった。
「参ったなぁ。実は俺達もガス欠になりそうなんですよ」
拓海が頭を掻くと、女性は思いついたように言った。
「それならガソリンを分けて差し上げますから、ここから少し行った所にある私の家まで乗せて行ってくれないかしら。家まで行けば電話もあるし、車は後日取りに来ればいいから」
その提案に拓海と茂木は顔を見合わせる。この状況ではそれがベストな案かもしれない。二人は女性の案に賛同する事にした。
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