第120話

 男に足にしがみつかれ、翔子は尻餅をついた。翔子の身体に男達の手が次々と伸び、翔子を社の中へと引きずり込もうとする。


「あぁぁぁぁぁぁぁあ!!!! いやだぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 泣き叫ぶ翔子の声は、もはや悲鳴というよりも絶叫に近かった。


 拓海達も葉月に止めるように叫んだ。自らにも命の危機が迫っている。しかしそれを忘れるほど、翔子があのような化け物達に弄ばれることが耐え難かった。


 縛られた手で、翔子は社の扉に指をかける。しかし男達はよほど強い力で翔子を引っ張っているのか、翔子の指はみるみるうちに鬱血してゆく。


 ベリッ


 やがて扉に手をかけていた翔子の指の爪が剥がれた。木製の扉に翔子の血で赤い線が引かれる。

「いやぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 そして翔子は痛みに顔をしかめる暇もなく、男達の手によって社の奥深く、腐臭の蔓延する闇の中へと引きずりこまれていった。


 ごめんなさい!!


 許して!!


 誰か助けて!!


 助けて!!


 助けて!!


 助けてぇ!!!!


 闇の奥から助けを求める翔子の叫びが聞こえる。

 その叫びは、葉月が社の扉を閉めた事により聞こえなくなった。そして葉月は閉めた扉に閂をかける。

 辺りに静寂が訪れる。

 拓海達は葉月の残虐な所業に言葉も出なかった。そして無力な自分達を呪った。


「次はあなた達の番」

 葉月は拓海達へと振り返る。つい数秒前に自らの従姉妹を地獄に落としたばかりにも関わらず、その表情は涼しいものであった。


「あんた、翔子ちゃんの従姉妹だろ!? なんでそんな事ができるんだ!」

 拓海は吠えた。葉月の悪辣非道な行為がどうしても許せなかった。そんな拓海を見て葉月は嘲りの笑みを浮かべる。

「従姉妹だからこそよ。翔子ちゃんにはちゃんと罰を受けて貰って、また村に戻ってきて貰わなくちゃ。私の大事な従姉妹だから」

 葉月の狂った精神に、拓海達は言葉も出ない。


「あなた達が翔子ちゃんをそそのかすのがいけないのよ。あなた達さえ大人しく死んでいれば、翔子ちゃんは罰を受けずに済んだのに」

 遠巻きに拓海達を囲んでいた女達が、拓海達へと歩み寄ってくる。既に香を嗅いでいるのか、足元まで体液が滴っている女もいる。寺まで拓海達を運ばず、この場で事を済まし、拓海達を喰らうつもりらしい。


「でもね、許してあげる。だってあなた達の命が、新しい命を生むんですもの。ほぉら、みんなあなた達の子種を欲しがってる」

 拓海の唇を、拓海を取り押さえている女の唇が塞いだ。女は貪るように拓海の唇をむしゃぶり、嫌がる拓海の口内を舌で蹂躙する。拓海が茂木に視線をやると、茂木は既に女に組み伏せられていた。


 女は自ら胸元をはだけさせ、乳房を露わにすると、右の乳房を拓海の顔面に押し付ける。そして体重をかけて拓海を押し倒すと、拓海の腹に自らの股間を擦り付けて喘いだ。その様子を見て他の女達も、辛抱たまらぬ様子で拓海達へと群がる。その中にはまだ幼さの残る少女もいた。しかし皆顔に狂気が浮かんでいる。彼女達に水上拓海という人間は見えていない。彼女達に見えているのは彼女達の子宮に快楽を与え、子種を放つ拓海の性器だけである。


 群がってきた女の一人は拓海の手に無理矢理乳房を揉ませ、別の女は拓海の唇を貪り、また別の女は拓海のベルトに手をかける。


 美女達による狂宴。

 世の男達が今の拓海を見れば皆羨ましがるだろう。精を放ち終えれば残虐な死が待っていると知らなければ。


 拓海はこの村を訪れた時、こんな事になるなんて思っていなかった。ただの温泉旅行のはずだった。


 拓海が、いや、拓海だけではない、茂木も達山も自らの終わりを感じた時、社の中から轟音が響いた。

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