第121話

 ゴオン


 ゴオン


 扉の内側から何か大きく硬いものがぶつかるような音が規則的に続き、閂を揺らす。女達は手を止め、拓海達も葉月も皆一様に社の扉へと視線を向けた。


 何度目かの音の後、閂がミシミシと悲鳴をあげた。そして次に音が鳴った時、閂にヒビが入る、更にもう一度音が響くと、音を立てて閂が砕けた。閂の破片が飛び散り、葉月は社から数歩後ずさる。


 ギギギギギギ


 歪んだ社の扉が僅かに開き、その隙間から赤い液体が流れ出てきた。そして何か球のようなものがゴロゴロと転がり出てくる。それは顔面の肉が半分程削ぎ落とされた男の頭部であった。


 次の瞬間、社の扉が内側から吹き飛んだ。扉は宙を舞い、女の一人に激突する。そして社の中から男達が一斉に這い出してきた。男達はその巨体故に立って歩く事ができないのか、這いずりながら女達へと襲いかかる。襲われた女達は悲鳴をあげ、逃げ出すものもいれば手にした刃物で応戦するものもいた。


 肥大した男に犯される女。女に刃を突き立てられる男。血と悲鳴が入り混じり、辺りは阿鼻叫喚の地獄と化す。


 拓海達に群がっていた女達も、拓海達を放り出してその場から逃げ出す。拓海は何が起こっているのかわからず唖然としていたが、側に女が手放した鎌が落ちているのを見て素早く立ち上がると、それを拾い茂木と達山の手を縛る縄を切った。


「何が起きたんだ?」

 拓海に渡された鎌で拓海の縄を切る茂木が尋ねるが、もちろん拓海にそれがわかるはずもない。手が自由になった拓海は、女に外されたベルトを締め直すと、社に駆け寄り奥に向かって叫ぶ。


「翔子ちゃん!!」

 社の奥からは返事が返って来ない。

 しかし、入り口に立つ拓海に向かって何者かが歩いてくる気配があった。何者かが一歩歩くごとに、ギシギシと床が軋み、それに合わせてボトボトと何かが落ちる音も聞こえてくる。やがて拓海の目に歩み寄ってくる者の姿がうっすらと見えた。暗くてよく見えないが、そのシルエットは小柄な翔子のものである。


「……翔子ちゃん?」

 拓海はもう一度呼びかける。すると今度は苦しげな声で返事が返ってきた。

「たく……み……さ……ん」

 やはり歩み寄ってくるのは翔子のようだ。

 ふらふらとした足取りの翔子に拓海は駆け寄ろうとし、ピタリと動きを止める。そして我が目を疑った。


「たす……けて……」


 入り口から入る灯りに照らされた翔子の全身からは、白く細い紐のような物が大量に生えていた。目から、鼻から、口から、耳から、手足から。ウネウネと触手のように蠢く白い紐が大量に生えていたのだ。中には皮膚を食い破って生えているものもある。


 拓海はその異様な姿に呻き、腰を抜かして後ずさる。そんな拓海の手を、茂木が掴んで引き起こした。

「……あれは、翔子ちゃんなのか?」

 茂木の問いに、拓海は小さく頷く事しかできない。数メートル先にいる化け物が着ているのは、あちこち裂けてはいるが、明らかに先程翔子が身に付けていた衣類だ。体格や声音、そして何より拓海の名を呼んだという事は、化け物が翔子である事は間違いなかった。

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