第71話

 蔵の中には、何かが山積みになっている。


 目を凝らしてよく見ると、積み重ねられていたのは、大量の鞄や靴、帽子、服、時計などであった。所々には鍵や財布や携帯電話、ノートPCなども見られる。


 この蔵は村の廃品回収場であろうか。いや、それにしては綺麗な物が多い。


 達山は蔵の奥へと歩みを進める。

 奥へと進む程、置かれているものの年代が古いようだ。達山は無造作に置かれていた革の長財布を手に取る。中には古びた免許証が入っており、有効期限は1974年となっている。更に奥に進むと、軍服のようなものや、猟銃、更に奥には和服、そして最奥部には日本刀や具足があった。


 一体いつからこの寺は建っていたのだろうか。そしてここに集められた物は何なのであろうか。


 村人達のもてなしの謎を探るために来たのに、また新たな謎に直面してしまった。


 そして達山は気がつく。

 積み重ねられた衣類が全て男物である事に。


 達山は衣類の山を掻き分ける。

 コート、シャツ、スーツ、そして奥にある和服に至るまで、全ての衣類が男物だ。


 目につく財布を集め、中の身分証を確認する。

 それらも全てが男性の物だ。


 達山は徐々にわかりかけてきた。

 この村の女性達は、村を訪れた男達をもてなし、油断させて、「何か」をしているのだ。


 何か。


 それが何かはまだわからない。

 殺害しているのかもしれないし、どこかに売り飛ばしているのかもしれない。もしくはあのケシを使った麻薬の実験台にしている可能性もある。達山は、かつて海外で実際にあった、マフィアが旅行者を誘拐して、臓器の密売業者に売り渡していたという恐ろしい事件を思い出した。


 それならばこの村を出なければいけないのは美咲やアヤではない。達山自身だ。


 アヤと美咲が自分を騙していた。


 その事実に達山はその場にしゃがみ込みたくなる。


 いや、きっとあの葉月という女がアヤと美咲を無理矢理悪事に協力させているのだ。そうに違いない。そうであって欲しい。そうでなければ、あの美咲の涙は何だったというのだ。


 達山は崩れそうになる心を奮い立たせ、急いで蔵から立ち去ろうとする。これから民宿に戻って車を取り、アヤの家の前に乗りつける。そして無理にでも二人を車に乗せ、この村から逃げ出すつもりであった。


 すると、蔵を立ち去ろうとする達山の目に、衣類の山の中から覗いている一冊の革張りの手帳が目に入った。手帳には付箋がびっしりと貼られており、衣類や鞄の中で異彩を放ち、その存在感をアピールしている。


 今は急を要する。手帳などに構っている場合ではない。しかし、達山はどうしてもその手帳が気になり、辺りを見渡して誰もいない事を確認すると、手帳を手に取った。

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