第70話
美咲が泣き止むのを待って、二人は温泉からあがり、帰る事にした。美咲はこれからこの村を案内すると言ってくれたが、達山は昆虫の採集をしたいと言ってそれを断る。そして道中で美咲と別れて、一度民宿へと戻った。
達山が美咲の誘いを断ったのは採集のためではない。村の調査のためだ。今朝葉月は、「寺」に「客」が来ると言っていた。しかし、達山が昨日寺を訪れた時に、寺は改装中で入ってはいけないと言われた。
達山はあの寺にはこの村の何かが隠されていると考える。そしてそれは、アヤと美咲にもてなしを行わせている要因かもしれない。
美咲とアヤに詳しく話を聞くべきかと思ったが、昨夜のアヤの様子や、先程の美咲を見るに、恐らく話してはくれないであろう。何か弱味を握られているのかもしれない。それが何かはわからないが、調べてみない事には始まらないのだ。
部屋で服を動きやすい格好に着替え、採集の時に使うウエストポーチにライトや十得ナイフなどを詰め込み、達山は民宿を出る。達山はいきなり寺に忍び込むつもりは無かった。まずは昼間の明るいうちに寺の周辺を調査し、侵入できそうな場所を探す。そして夜になったら内部を調べるつもりであった。
しかし、そのようなまどろっこしい事をする必要は無かった。
達山が、昨日と同じように寺がある林の入り口に来ると、昨日近くの畑にいた老婆は今日はおらず、達山はなんなく林の奥へと進む。そして寺の門の前に立った。
門には鍵がかかっていると思っていたが、達山が門に手をかけて開くと、すんなりと開いた。そして目の前に、いつから建っているのかもわからない、ぼろぼろに朽ちた廃寺が目の前に現れる。改修中だと老婆は言っていたが、これは改修するよりも取り壊して立て直した方が明らかに早いという程だ。そして工事をしている様子もない。
老婆が嘘をついて達山を寺に入れないようにしたのであれば、この場所が益々怪しい。
達山は誰かに見られていないか辺りを見渡しながら、誘い込まれるように参道を進む。辺りに人影は全く無かった。気配すらも感じない。すると達山は、本堂のすぐ側に大きな蔵を見つけた。
達山はなんとなくその蔵が気になり、前に立ち、扉を開く。ツンとしたカビの臭いが達山の鼻を刺激する。そして、蔵の中には奇妙な光景が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます