第95話
どれくらいの時間が経ったであろうか。
ザリザリという何かを擦るような音で拓海は目を覚ました。
音のする方を拓海が見ると、達山が手首を壁に擦り付けている。どうやら縄をすり減らして切ろうとしているらしい。
拓海が目を覚ました事に気付いた達山は「この状況でよく寝ていたな」と言った。拓海はどれくらい寝ていたか聞いたが、この部屋には時計もなく、日も入らないので詳しくはわからないようだ。ただ、数時間は経過しているのは間違いないらしい。寝る前より部屋がアンモニア臭いのは、達山が部屋の隅に用をたしたからだそうだ。拓海も達山に習い、部屋の隅で用をたした。
意識がはっきりしてきた拓海は、空腹と喉の渇きを感じた。葉月達がいつ拓海達を連れ出しに来るのかわからなかったが、もしかしたら最後の晩餐のようなものがあるのかもしれない。それとも宿便を出すために、限界まで何も与えられないのだろうか。そうであれば最後の抵抗をする事すら難しくなる。
拓海がそんな事を考えていると、達山は「ダメだ」と呟き、壁に縄を擦り付けるのをやめた。どうやら手首の縄はどうにもならぬと判断したらしい。後は葉月達が拓海達を連れ出しに来るのを待つだけだ。時を持て余した二人は、試しに協力して扉を開こうとしてみたが、木製の分厚い扉はガタガタと揺れるだけだった。覗き窓から外を覗くも、無人の階段が見えるだけだ。
焦りはあった。
もちろん恐怖も。しかし、一度睡眠を取ったせいか、昨夜見たあの惨状がまるで夢であるかのように、自分に死が迫っているという危機感は薄まっていた。あまりにも絶望的な状況に、感覚が麻痺しているのかもしれない。
いくら後悔しても遅いが、今の状況に比べれば強引にでも村を出る機会はいくらでもあった。にも関わらず、拓海が今ここにいるのは、拓海の欲深さと愚かさと危機感の無さ、そして自然な村人達の振る舞いのせいだ。
この村はまるで食虫植物である。甘い匂いで獲物を引き寄せ、獲物は汁を吸っているうちに気がつけば逃れる事ができなくなっている。
一体何人の男達がこの村に飲まれたのか想像もつかない。しかし、幾多の男達を殺害して、果たして一度も警察の捜査にこの村が引っかからないものであろうか。村人達の隠蔽により、全てが行方不明で済まされているのかはわからないが、この村の闇は拓海の想像以上に大きく、深いのかもしれない。
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