第94話
「大丈夫か? 何もされなかったのか?」
再び地下室に放り込まれ、惚けている拓海に達山が声をかける。そして吐瀉物の匂いに僅かに顔をしかめた。
「大丈夫です」
拓海はそう言ったが、精神的なダメージは大きかった。葉月に指摘された事や、あの部屋の惨状もそうであったが、それ以上に茂木の死が拓海の心を砕いていた。茂木がいる事で劇的に状況がよくなる訳ではなかったが、茂木がいればきっと望みは薄くとも脱出の方法が思い浮かんだかもしれない。もしくは茂木が逃げのびていて、助けを呼んでくれるという希望もあったかもしれない。しかし、最早その可能性は無い。達山と二人で、この絶望的状況をどうにかするしかなかった。
拓海が達山に友人茂木の死を告げると、達山はただ「そうか」と言って黙り込む。
二人にどれだけ時間があるかはわからない。もしかしたらすぐにでも葉月が戻って来て、拓海をあの地獄のような部屋に連れて行くかもしれない。いや、順番で言えば達山が先であろうか。しかし、一人でこの村から脱出するなど、それこそ無理な話だ。
「我々はタイミングが良かった方かもしれない」
しばらく拓海の様子を見ていた達山は、拓海が落ち着いたのを確認してそう言った。
達山が言うには、拓海が来る前にこの部屋には達山を除いて六人の男がいたらしい。村の女達が男を喰らうペースはわからないが、六人もの男を喰らったすぐ後に、また二人を喰らうとは思えないとの事だ。二人があの部屋に連れて行かれるのは早くて明日の昼、遅ければ数日後かもしれないとも言った。
それから二人は脱出のための計画を練る。
しかし、二人には村を脱出する手段どころか、手足を縛られている今の状況では地下室を出る手段すら思い浮かばない。地下室には排便排尿用の桶すら用意されておらず、縄を切る事もできない。前歯で齧ってみるが、縄は幾重にもきつく縛られており、文字通り歯が立たなかった。
絶望的な状況で、結局二人はシンプルな答えに行き着く。二人が考えた作戦は、二人があの部屋に連れ出される時、おそらく足の縄を解かれて女達に上まで連れて行かれる。そこで拓海達は階段を上りきったところで女達に抵抗し、廊下を中庭の方へと走り、中庭から森へと逃れて、バラバラに姿を隠すというものだ。
それはあまりにも稚拙な作戦であり、そもそも二人同時に連れ出されるかもわからない。しかし今の二人にはこの作戦しか思い浮かばなかった。
達山と話をした後、拓海は少しだけ眠った。
さっきまで気絶していたとはいえ、昨夜の翔子とのセックスと、昼間に村を走り回った疲労、そして先程の出来事で、拓海は酷く疲れていた。
明日、恐らく自分は死ぬだろう。
そんな状況でも、今は眠りに身を任せたかった。人生最後の安らぎに。
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