第138話
「え?」
突然現れた葉月の姿に、拓海の口から思わず間の抜けた声が漏れる。
「私の男に触るな!!!!」
桜子が拓海にしがみついているのを見て、葉月は目を釣り上げ、二人の間に割って入る。そして桜子を壁まで突き飛ばした。桜子は壁にしたたかに背中を打ち付け、床に倒れこむと苦しげに咳き込む。
葉月はそんな桜子に襲いかかり、馬乗りになると、桜子の口に何か得体のしれぬものをねじ込んだ。
それはかつて警備員の股間についていたものだった。
生臭い臭いが口内に充満し、桜子はそれを必死に吐き出そうとするが、葉月は桜子の口を押さえつけて、それを飲み込ませようとする。拓海は葉月の腕を掴んで桜子から引き離そうとするが、葉月の腕は棒のように細いにもかかわらず凄まじい力で、引き離すことができない。
桜子の顔がみるみる青くなってゆく。このままでは桜子は窒息死してしまう。
「うげぇぇぇえ……!!」
胃の奥から込み上げてきた吐瀉物が、口内に捻じ込まれた男根により逆流し、胃液が喉を焼き、鼻から吐瀉物が溢れ、苦しさと痛みで桜子の目から涙が溢れる。
すると、葉月の腕から力がフッと抜けた。
警備員の男根が、桜子の口から血や吐瀉物と共にゴボリと吐き出される。葉月はそんな桜子の顔をじっと見つめていた。
「翔子ちゃん?」
唐突に葉月は桜子の顔を掴み、翔子の名を口にした。
「翔子ちゃん! 翔子ちゃんこんなところにいたんだぁ! 翔子ちゃん! 翔子ちゃん! 翔子ちゃん!」
桜子と翔子の容姿は全く似ていないにも関わらず、葉月は桜子の顔を掴んだまま翔子の名を連呼し、狂ったように笑いだす。
葉月の精神は、その肉体と同じように歪み、壊れ始めていた。いや、既に壊れているのかもしれない。
笑いながら桜子の顔を嬉しそうに撫で回す葉月の側頭部に、拓海はパイプ椅子を振り上げて、背後から全力で叩きつける。葉月は桜子の上から吹っ飛ばされ、机の角に強く頭をぶつけた。
頭から血を流して動かなくなった葉月を尻目に、拓海は桜子の腕を掴んで起き上がらせる。
「走れるか!?」
拓海の問いに桜子は弱々しく頷く。
すると、走り出そうとした拓海の足を、葉月の腕が掴んだ。
「ダメェ、ワタシをアイシテェ」
葉月は掴んだ拓海の足首に喰らいつくと、歯を立てて顎に力を込める。ブチブチと、拓海のアキレス腱が喰い千切られる音がした。
拓海は転倒し、凄まじい痛みに絶叫する。
葉月は動けなくなった拓海の体をよじ登るように抱きつく。
「逃げろ!」
痛みで視界をチカチカさせながらも、拓海は桜子に向かって叫ぶ。しかし桜子は震えたままその場を動く事ができなかった。拓海の手に、生暖かい液体の感触が触れた。桜子は恐怖のあまり失禁していたのだ。
葉月は拓海の髪を掴み、床に叩きつけた。
硬い床に叩きつけられた衝撃が拓海の脳を揺らす。
葉月は何度も拓海の頭を床に叩きつける。
何度も、何度も。
そして額が割れて溢れた血が、床に溢れた桜子の尿と混じり合った時、拓海は意識を失った。
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