第137話
葉月は数秒二人を見つめると、窓口から姿を消す。葉月の消えた窓口から、拓海と桜子はしばらく目を離す事ができなかった。
「……ねぇ、あの人いったい何なの?」
桜子の言葉にハッとし、拓海は大きく息を吸う。そして額の汗を拭った。
「後で、後で全部説明するから」
拓海はそう言って警備室内を見渡す。
室内にはファイルされた書類や、使い方の分からぬ通信設備、配電盤のようなものが設置されており、壁には不審者制圧用の刺又が立てかけてある。そして奥には宿直室へと続くドアがあった。刺又は武器になるかと思ったが、ただの先の分かれた棒のようなものが、あの化け物じみた葉月に通用するとは思えない。通信機器を弄ろうとしたが、拓海には電源の入れ方すらわからなかった。
拓海はポケットからスマホを取り出すと、警察に通報をしようと電源を入れる。しかし画面には何も表示されず暗いままだ。実は拓海のスマホは、大講義室で停電した時からライトを点けっぱなしにしていたためにバッテリーが切れてしまっていたのだ。
スマホを叩き割りたい衝動を堪え、拓海は自分のスマホをしまい、桜子にスマホを借りる。しかしスマホにはロックがかけられており、開くことができない。
「おい! パス教えろ!」
パスも入力せずにスマホを渡した桜子に、拓海は思わず苛立った声を上げる。桜子は身を竦ませ、パスコードを口にした。
怯えた様子の桜子を見て、拓海の胸に後悔の念が押し寄せる。突然葉月に追われて、桜子も混乱しているのだろう。そもそも拓海のせいで桜子は巻き込まれたようなものだ。それなのに拓海は更に桜子を萎縮させてしまった。本来ならば桜子を守り、安心させねばならないのに。
「怒鳴ってごめん」
桜子に謝罪をすると、桜子は首を横に振る。そして震える声で「大丈夫」と言った。
拓海はもう一度「ごめん」と言うと、桜子の頭を軽く撫で、スマホにパスコードを入力する。桜子は拓海が警察に通報している間に、何か役に立ちそうなものを探そうと思い、設置されていたロッカーの扉を開く。
ロッカーの中には何かがぎゅうぎゅうに詰め込まれている。詰め込まれていたのは、ペニスが引き千切られ、苦悶の表情を浮かべている半裸の警備員の死体であった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
桜子は悲鳴をあげて拓海にしがみつく。突然の事に拓海はスマホを取り落とした。完全にパニックになった桜子は、袖を千切らんばかりに拓海の腕を引いて震えている。
「おい! 落ち着け! 落ち着けって!」
拓海がそれを宥めようと声をかけていると、不意に、警備室から宿直室へと続くドアが開いた。
そしてそこには葉月が立っていた。
拓海達は知らなかった。警備室の奥にある宿直室は、更に奥に用具室があり、その用具室は廊下と繋がっている事を。
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