第47話
風呂に入り、部屋に戻った茂木は、洗ったばかりの髪を整髪料で整えた。普段セックスの前のシャワーでは、整えるのが面倒なので髪は洗わないのだが、昼間の散歩で汗をかいたので、つい頭まで洗ってしまったのだ。
それから窓際の籐椅子に腰掛け、月を見てタバコをふかしながら、ただ葉月を待つ。茂木は行列やバスを待つ事は嫌いであったが、今は別だ。昼間に温泉で見た葉月の見事な肢体をこれから好きにできる。それをイメージしただけで股間が熱くなる。しかし、熱くなる股間とは裏腹に、心の奥には冷めたものがあった。どれだけ魅力的な女性とセックスをしても、心までは分かり合えない。茂木はそう思い込んでいる。茂木にとってセックスは、共に子を育むための愛情行為ではなく、女性という敵の気持ちいいところを探り、屈伏させる対戦ゲームなのだ。もしくは己をどれだけ熱くさせるかを試すごっこ遊びとも言えよう。
葉月はどんなやり方が好きだろうか。
そんな事を考えていると、突然電気が消え、部屋が闇に包まれた。茂木は灰皿でタバコを消し、ジッポライターに火をつける。すると、部屋のドアの向こうで、拓海の部屋のドアが閉まる音がした。茂木は「なるほど」と、これが葉月と翔子による「もてなし」の演出だと理解した。
数秒の後、茂木の部屋のドアがノックされる。そして何やら甘い匂いが茂木の鼻孔をくすぐった。茂木はその匂いに嗅ぎ覚えがあった。その匂いは、以前福岡のクラブで、友人に貰って吸引した事のある脱法ハーブのケミカルな匂いに似ていた。いや、それよりももっと青臭い、マリファナだかケシに近い匂いだ。
セックスにドラッグ。まるでどっかの原住民のようだと茂木は思ったが、こんな田舎では独自の文化が築かれていてもおかしくはない。茂木の田舎では、近い距離であれば老人達が平気で飲酒運転をしていた。ある意味都会とは法律が違うのだ。
匂いをかいでいると、ドラッグ特有の脳の奥で何かが鳴るような感覚がグワングワンと響いてくる。どうやらダウン系のドラッグらしい。茂木がドアを開けると、そこには肌襦袢姿の葉月がおり、妖艶な笑みを浮かべていた。
その夜、茂木は葉月と熱い一夜を過ごした。何度葉月に精を放ったのか数えてはいない。脳が壊れるのではないかというほどの快楽の中、茂木の心はやはりどこか冷めていた。
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