第17話
「へぇー、じゃあ葉月ちゃんて経験人数多いんだ」
茶化すようにそう言ったのは茂木である。
「どうなんですかね。でも、若い人って滅多に来ないから」
「それなら、もしかして久しぶりだったりとかする?」
茂木は葉月の腰に手を回す。葉月はそれを嫌がる素振りすら見せない。それどころか自ら茂木に体を密着させる。
「そう。だから、今夜は楽しみましょう」
葉月は茂木の首元に軽くキスをした。
「別に夜まで待たなくても、俺は外でしても良かったんだけどなぁ」
茂木は鼻の下をだらし無く伸ばし、拓海達に見られているのにも関わらず、葉月の乳房に手を伸ばした。茂木の指が敏感な部分に触れたのか、葉月は一瞬吐息を漏らし、体をピクリと震わせたが、葉月は乳房を弄ぶ茂木の手を優しく掴み、嗜める。
「もー、それはダメ。誰かに見られちゃうかもしれないし。ここ、村の人も入りに来るんですから」
側から見たら二人は完全にただのバカップルのように見えた。
「それに、翔子ちゃんと水上さんもいますから」
拓海は翔子が先程から黙ったままな事に気がつく。
「翔子ちゃんも、いつもこんな感じなの?」
翔子は拓海の質問に答えずに、ただ俯いている。
「翔子ちゃんは、ね?」
葉月は翔子へと意味深な視線を送る。
そのやりとりに、拓海の脳裏にまさかの言葉が浮かぶ。
相変わらず翔子は何も言わない。
拓海は「もしかして初めてなの?」という頭に浮かんだ疑問を口にはしなかった。もし初めてだとしても、翔子が自ら言わないのであれば、それをわざわざ聞くというのも野暮だと思ったのだ。翔子が初めてにも関わらず、拓海を求めているのならばそれに応えるのは名誉な事だと拓実は考えた。
しかし、出会って数時間も経っていない仲なのに、それは良い事なのであろうか。
肉体的には成熟しているように見えるとはいえ、少女の初体験を奪う事は拓海の中でやや重たく感じる。倫理と欲求が再び拓海の中でせめぎ合うが、その心中での争いは、股間の火照りによりすぐに終結へと向かう。
据え膳食わぬは男の恥とはよく言ったものだ。
例え初めてを拓海に捧げて後悔しようとも、それは翔子の問題だ。
そう考えて、拓海は今夜翔子にしようとしている事を己の中で正当化した。そして、頑なに体を許してくれなかった桜子の事を思う。
そう、桜子は少し特別だっただけだ。セックスなんて互いに快楽を求め合うだけの娯楽だ。
勿論、セックスは生殖として、愛を確かめ合う手段として重要な意味はある。しかし、現在は避妊ができなかったような時代とは違う。いや、むしろそのような時代からセックスは娯楽や商売であった。それどころか、人類最古の商売は売春であったと拓海は何かの本で読んだ事がある。セックスを娯楽として認識するのはむしろ当たり前なのだ。
互いに求めあっているならば交わせば良い。初めてだの最後だのそんな事を考えるのは些細なセンチメンタルに過ぎない。
桜子がなぜ自分に体を許さなかったのかはわからない。でも、それは桜子の方がおかしいのだ。現に翔子のように、娯楽として拓海に初体験をささげようとしている女もいる。拓海はそれをリードして、そんなに悪くない思い出になるように努めればよいのだ。
脳内で無理矢理とも言える理論付けが終わり、拓海は翔子とセックスをする事を決めた。
本当は今すぐ求めたいくらいの気分であったが、それを抑えるくらいの理性は、辛うじて残っていた。
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