第18話

 温泉を堪能した四人は服を着て、村へと戻る事にした。

 着替えの時に拓海がスマートフォンを見ると、時刻は正午を迎えたところであった。

 温泉から村への道中、四人はこれからどうするかを話し合う。


「お昼ご飯はどうしますか?」

 葉月にそう問われたが、拓海も茂木もこの村で昼食が摂れる所など知らない。そもそもコンビニすら無いこの村に飲食店があるのかすら疑問である。

 民宿に戻り、連泊の手続きをするついでに食事を摂らせて貰えないかと考えていると、翔子が「美味しいものが食べられる場所あるよ」と言った。

 二人はこれ幸いと思い、昼食の場所を翔子に任せる事にする。


 翔子の後を歩きながら、拓海と茂木は昨夜は暗闇でじっくりと見る事ができなかった村の風景を楽しんだ。

 木造の平屋がポツポツと並び、所々に田畑が並ぶ村中の風景は、福岡の天神近くに住む二人にとってどこか懐かしく、心癒される風景であった。


「なんかさぁ、この村に住んだ事無いのに懐かしく感じるよな」

 茂木の言葉に拓海は頷く。

 灯籠村は自然に囲まれつつも人間が暮らしやすいように整備された道や川があり、高い建物が無く、風を良く感じる事ができる。

 そして、人々の距離感が近く、暖かい。すれ違う子供や老人などの村民達が、皆一人残らず葉月と翔子と挨拶を交わし、よそ者である拓海達にもにこやかに挨拶をしてくれる。都市部ではそんな事はまずあり得ない。一日中街を歩いていても顔見知りにすらすれ違わない事もあり、それ故に孤独を感じる事も多い。

 拓海はこの村を、素直に「良い場所だ」と思った。


 しばらく歩くと、翔子は一軒の古民家らしき建物の前で立ち止まる。古民家の正面には暖簾がかけられており、「お食事処・みうら」と書かれていた。


「ここ、私の家」

 翔子はそう言うと、引戸を開けて暖簾を潜る。

 拓海達も後に続いて暖簾を潜った。

 翔子が店の奥に向かい、「ただいまー」と声をかけると、奥から良子と同じ歳の頃の女性が出てきた。どうやら彼女は翔子の母親らしい。

「おかえりなさい。あら、お客さん? 葉月ちゃんもいらっしゃい」

 翔子の母親もこの村の他の女性達と同じで、翔子程の娘がいる歳の割には若々しく美人であった。


 拓海達はテーブル席に通され、置かれたメニューに目を通す。

 翔子にオススメを聞いた所、翔子は「ウナギかな」と答えた。翔子の話によると、鹿児島はウナギの養殖が盛んであり、この村の近くにも養殖場があって、そこから仕入れているらしい。

 メニューにあるうな重は昼食にしては少し値が張ったが、旅先という事で財布の紐が緩んでいた二人は思い切ってうな重の上を注文した。

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