第16話
どれほどの時間翔子の唇を貪っていたであろうか。
長く湯に浸かっていたせいか、接吻のせいで酸素が足りないせいか、苦しさを感じ始めた頃、背後から茂木の声が聞こえた。
「おい、このまま始めちまうつもりか?」
拓海がハッとして翔子から唇を離すと、背後では茂木と葉月が二人を見ながら笑っている。
見られていた事を知った拓海は急に恥ずかしくなり、翔子から僅かに体を離す。
翔子の体を隠していたバスタオルは既に全身から剥がれており、湯の中に沈んでいた。
翔子も恥ずかしくなったのか、前を隠しながらバスタオルに手を伸ばし、露わになった裸体に巻きつける。そして拓海の耳に口を寄せると「後で鎮めに行くから」と言った。
拓海の股間はまだ痛い程に硬いままであった。
翔子は先程今夜部屋に来ると言ったが、冷静に考えると拓海達は今夜もこの村に滞在すると決めてはいない。しかし、この火照りを翔子が鎮めに来てくれるのであれば、滞在しない手は無い。
拓海は伺いを立てるように茂木をチラリと見る。
すると、茂木は冗談めかしてこう言った。
「あと何泊する?」
茂木の隣では葉月が微笑ましげに妖艶な笑みをうかべている。どうやら向こうもこちらと同じやり取りがあったようだ。
☆
その後四人はのぼせた体を冷ますために温泉の縁へと腰掛ける。
温泉を囲む竹林から吹き抜けてくる風にあたりながら、今起こった事が信じられない拓海はおずおずと口を開いた。
「二人とも、積極的なんだね……」
先程の翔子と葉月の行動は積極的なんて言葉では収まるものとは思えなかったが、拓海には他に適切な言葉が浮かばなかった。
すると、それを聞いた葉月が言葉を返す。
「びっくりしたかもしれないけど、この村の女はみんな性に大らかなんですよ」
事も無げな葉月の言葉に、拓海は驚く。
「なんて言うか……進んでるね」
「逆ですよ。遅れているんです。この村には娯楽が少ないから、拓海さん達みたいな若い男性が来たらこうしてもてなすのがこの村の女性のしきたりと言うか……娯楽なんですよ」
そんなバカなと拓海は思った。
確かにこの村にはコンビニすら見当たらない。だからと言ってあのように過激な事を本当に娯楽としているのであろうか。自分の娘がそのような事をしていると知れば良子はどう思うのであろう。いや、もしかしたら良子も若い頃は、村を訪れた男達と体を交わしていたのかもしれない。
「でも、この村にも若い男いるでしょう? 恋人とかは作らないの?」
「恋人はいません。若い男も少しはいますけど、大体の若い男はすぐ他所に出て行ってしまうし、それに……新鮮さに勝る刺激って無いですから」
葉月の口から語られる言葉は、拓海にとってカルチャーショックが過ぎた。
昨夜初めて会った時は、清楚そうな葉月がそのような事を考えており、口にし、行動するとは夢にも思わなかった。今だってバスタオル一枚という格好をしているが、風に吹かれて涼しげにしている様子は純真で清廉な女神のように見える。そんな葉月が性的な接触を娯楽だと割り切っているだなんて、拓海にはとても信じられない。
しかし、そんな葉月が先程まで淫靡に茂木と舌を絡めていたのは紛れも無い事実であった。
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