第91話

 ロウソクの灯りに照らされる部屋の中には、赤と茶色のまだら模様の世界が広がっていた。部屋の中央には一列に寝台が並べられており、それぞれの寝台の上には赤と白の入り混じった縦長の塊が乗っている。そしてそれらを全裸の女達が取り囲み、全身を液体で赤く染めながら、塊の一部を一心に口に運んでいた。


 吸い込んでしまった香のせいか、その光景があまりにも現実離れしているせいか、拓海は目の前に広がる光景をうまく認識する事ができない。


 例えるならば「地獄」。


 それはまさに地獄の様相であった。恐ろしい顔をした鬼が引きちぎった人間の手足を口に運ぶ地獄の絵を、拓海は何かで見た事がある。目の前の光景はそれよりもどこかシュールだ。なぜならそこにいるのは鬼ではなく、皆美女ばかりなのだから。


 停止していた拓海の思考がゆるゆると動き出す。


 もし達山の話を聞いていなければ、拓海はまだその縦長の塊が何か認識する事が出来なかったであろう。しかし、拓海には寝台の上のソレが何かわかってしまった。


 人間だ。

 それはもう人間と呼べるものではなかったが、あちこちがぐちゃぐちゃになったその塊は間違いなく人間の残骸だ。寝台に収まる縦長の形、頭部のようなものがあり、胴のようなものがあり、手足のようなものもある。所々からのぞいている白いものは骨であろう。寝台の上にあるそれらは、きっと先程まで人間だったのだ。そして部屋をまだらに染めているのは、大量の血だ。生臭い匂いの正体は大量の血液と、残骸から溢れる臓物の匂いだったのだ。


 女達は残骸に顔を突っ込み、血に塗れながらその肉を食す。ミチミチと筋を引きちぎり、くちゃくちゃと臓物を咀嚼するその姿はまるで悪鬼だ。


 突如、目眩と吐き気が拓海を襲い、拓海は壁に寄りかかる。いくら吐き気を催しても、人間は吐こうと意識をしなければ簡単には吐けぬものだ。込み上げる不快感に顔をしかめながら、拓海は唇を噛み締めた。


 不思議と悲鳴は出なかった。

 心のどこかで、拓海はこの光景はきっと夢だと思っていたから。


 葉月はそんな拓海の様子を見て、部屋の中へと入って行く。そして一番奥の寝台に近付くと、何かを手に取り、拓海の所へ戻って来た。そして惚ける拓海の手に何かを握らせる。


 ヌルリと、滑らかな感触があった。


 拓海は手を開き、渡されたそれを見た。

 そして拓海は思わず悲鳴をあげてそれを放り投げる。

 床に転がったそれは、人間の眼球であった。


「あら、酷いじゃありませんか」

 拓海が手を震わせながら葉月を見ると、葉月は口元を歪めて笑う。


「お友達を投げるなんて」


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