第59話
翌日、昨夜張り切りすぎた達山は、昼過ぎに目を覚ました。予定していた昆虫の採集はできなかったが、後悔はしていない。妻のいない達山にとって数年ぶりに思う存分事を致せたのだから。人生にはこういうイレギュラーも必要だと達山は考える。学生達山を連れてこなかった事で、思わぬ幸運にありつけたとすら思った。もっとも、目を覚ました時に隣で寝ていると思ったアヤの姿は無かったが。
身支度を整えて遅すぎる朝食を取り、達山はこれからの予定を立てる事にした。
民宿の値段がこれだけ安いのならば、もう一泊して明日の朝に採集を行なっても良いであろう。そう考えた達山は、その日は一日村の探索をする事に決める。
女将に連泊する旨を伝え、達山は民宿を出た。そしてスマホで村の風景などを撮影しながら、のんびりと散策をする。たまにすれ違う村人達は、見慣れぬ達山に対して皆にこやかに挨拶を投げかけてくれる。この村は山奥の辺鄙な村であるにもかかわらず、見かけるのはなぜか美しい女性が多かった。農作業をしているのも、老人よりも二十代〜三十代の女性が多かった程だ。農業の高齢化問題や後継問題が唱えられる中で、若い女性が積極的に農業に従事する事は良い事だと達山は感心する。きっと彼女達はこの村の生活が好きなのであろう。そして不思議な事に、男性の姿を見る事は一度もなかった。
他にも達山は、今はもう見る事の珍しい平屋建ての分校の校舎や、役場のような建物、さつまいもの栽培している畑を見て回りながら、村人達と会話をして交流をした。そして夕方頃、林の奥に寺を見つけて中に入ろうとしたのだが、寺の近くにある畑で作業をしていた老婆に、改装中だから入ってはいけないと言われて断念した。
民宿への帰り道、達山は突如尿意を催した。辺りを見渡すも、公衆トイレなどという洒落たものはこの村には無い事は明らかだ。民宿まではまだ遠く、民家でトイレを借りるのも恥ずかしい。しかし、幸い辺りに人影はなく、少し藪の奥に入れば姿を隠せそうだ。
達山は立ち小便をするために、辺りを見渡し藪の中へと入る。そして木の裏に隠れて用をたしている途中、藪の更に奥に何やら白い大きなものが見えた。生い茂る木々のせいで辺りは薄暗かったが、よくよく見ると、それがビニールハウスである事が分かった。
こんな所でも何か栽培しているのかと、達山は好奇心に駆られて藪の奥にへと進む。ビニールハウスの周りには誰もおらず、達山は少し躊躇ったがビニールハウスの中を覗いてみた。そして達山は驚く。
そこで栽培されていたのは、大量のケシであった。
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