第22話

 食事を終えると、茂木が外でタバコを吸いたいと言うので、拓海も付き合って外に出る。

「いやー、すっぽん美味かったな。俺初めて食ったよ」

 茂木はジッポライターでタバコに火をつけると、うまそうに吸い、紫煙を吐き出した。

 拓海は以前、茂木が「美味いものを腹一杯食べた後のタバコが一番美味い」と言っていた事を思い出す。その後で、「じゃあ、二番目に美味い時は?」と拓海が聞いたところ、茂木は「ウンコしながら吸うタバコ。あ、キレがいい時な」と、答えて笑った。


「なぁ茂木、ちょっとできすぎてる気がしないか?」

 拓海は軽く辺りを見渡し、小さな声で囁いた。

「何がだ?」

「確かに俺達は良子さんを助けたけどさ、タダで宿に泊めて貰って、美味い飯食わせて貰って、温泉にも案内して貰って……ちょっと大袈裟っていうかさ」

「またその話かよ。大袈裟ねぇ……まぁ、恩返しとかお礼にしては、ちょっと色々してもらい過ぎって思うけどさぁ」

 茂木は空を見上げ、タバコの灰をポンポンと地面に落とす。そして少し考える素振りをし、拓海を見た。


「でも、俺はこういうのはラッキーだと思って貰えるだけ貰っとくべきだと思うぞ」

「……そうかな?」

「だってよぉ、こんな幸運一生に一度かもしれないじゃねぇか。それに、俺達が助けたのがもしも石油王だったら、もっと凄いもてなしを受けてたかもしれないしさ」

「それはちょっと話が違うだろ」

「同じだって。たまたま俺達が助けた良子さんがこの村の人で、この村の人達がたまたまいい人達だったってだけだろ」

「そうだといいんだけどなぁ」

「お前何が言いたいんだよ」

 いまいちはっきりとものを言わない拓海に、茂木は少し不機嫌そうな表情を浮かべる。


「ほら、後からすげー料金請求されるかもしれないじゃん。浦島太郎だって竜宮城から帰ったら爺さんになっただろ?」

 それを聞いた茂木は今度は思いっきり吹き出した。

「浦島太郎って! お前ウケるわー。大丈夫だって。中洲のぼったくりバーじゃないんだからさ。ましてやここは竜宮城でもないし、鹿児島のど田舎だぞ?」

「それはわかってるけど、何か裏があるかもしれないだろ?」

「お前そういう映画の見過ぎなんじゃないか? せっかく村の人達が良くしてくれてるのに失礼だぞ。こういうのはちょっと図々しいくらいでちょうどいいんだよ。ここまできたらもてなす方も好きでやってるんだろうしさ」

 失礼だとまで言われてしまっては、拓海はそれ以上何も言えなかった。


「わかった。お前今夜翔子ちゃんとヤルからって緊張してるんだろ?」

「違うって! ただあんまりにもいい事ばかり起こるから、ちょっと怖くなっただけだ」


 いい事————

 そう、この村に来てから拓海にとってはいい事ばかりが起こっている。そして今夜はもっと「いい事」の約束がある。

「そういやお前、ゴムあんのか?」

 ニヤリと笑う茂木の言葉に、拓海は「当たり前だ」と言わんばかりに、少しカッコつけて頷いた。

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