第123話
暗闇の中で、虫達が蠢く音が響く。拓海と茂木は手探りで互いの存在を確かめた。もし今虫達に襲われたら、二人はろくな抵抗もできずに寄生されて虫達の新たな宿主になるであろう。震える二人の耳に翔子の声が聞こえた。
「あんただけは……ゆるさない……」
声の後に、翔子が起き上がる音が聞こえ、数度床が軋んだ次の瞬間、社の扉が弾けるように外側へと開かれた。翔子が内側から扉をぶち破ったのだ。そして翔子は全身から虫を撒き散らしながら、社の外にいた葉月へと襲いかかると、地面に押し倒す。
「いやぁぁぁぁあ!!」
葉月は悲鳴をあげ、翔子を引き剥がそうとするが、翔子は葉月の胸倉を掴み、万力のような力で葉月を地面に押さえつける。葉月は手にした鎌を振るい、翔子の背中に突き刺した。それでも翔子は葉月を放さない。
「放しなさいよ!!」
葉月は翔子に刺さった鎌を、力の限り引いて背中の肉を裂く。翔子の背から血が溢れ、翔子は苦痛に顔を歪める。翔子の力が弱まり、葉月は笑みを浮かべる。そしてぐりぐりと鎌を翔子の傷口にねじ込む。すると、今度は翔子が歪な笑みを浮かべた。
「え?」
翔子は葉月の胸倉から手を離し、葉月の顔に手を添える。そして虫が湧き出す自らの顔を近付けて、葉月にキスをした。
「んぼっ!? おげぇ!!」
翔子の口内から葉月の口内へ、大量の虫達がなだれ込む。葉月はその気色悪い感触に嘔吐しようとしたが、虫は葉月の身体を求めるように、次々と葉月の体内へと入り込んでゆく。口からだけでなく、鼻からも、耳からも、目からも、肛門や尿道からも、翔子の身体から出てきた虫達は容赦なく葉月の身体中の粘膜を突き破り、体内へと潜り込む。
虫を吐き尽くした翔子は、虫達が体内に入り込む激痛に絶叫し続ける葉月に倒れ込み、耳元で囁く。
「キス、好きなんでしょう?」
その言葉は、虫達に鼓膜を破られ、蝸牛まで犯されている葉月にはもう聞こえてはいなかった。
全身から血が溢れ、内臓や脳まで虫に食い破られた翔子は葉月の上で目を閉じる。翔子には自らの命の終わりが近いことが理解できた。
何も良い事など無い人生ではあったが、死ぬ前に一度だけ男に抱かれてから死ねる事が、ほんの少しだけ嬉しかった。昨夜感じた拓海の肌の温もりを思い出しながら、翔子の意識は深い闇へと呑まれていった。
社から出た拓海と茂木は何もできずに翔子の最期を見ていたが、達山の二人を呼ぶ声にハッとして、後ろ髪を引かれる思いでその場を走り出す。女達の混乱はまだ続いていたが、社から出てきた男達はその殆どが女達の手によって殺されていた。
走って逃げ切れるかはわからない。しかし、今はただ走るしかなかった。
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