第51話

 後ろ暗い秘密。あの岩場で誰かが殺され、村人がそれを隠蔽しているのだろうか。いや、それだけでは無いだろう。拓海が語る違和感が間違っていないとすれば、もっと村ぐるみの大きな秘密があるはずだ。


 茂木達に対する過剰なもてなし、葉月が昨夜持ち込んだ香炉に仕込まれたドラッグ、もしかしたら昨日散策中に見かけた寺も、村の秘密に何か関係しているのかもしれない。となると、茂木達にも何かしらの危険が及ぶ可能性は大いにある。それならば、早急にこの村を去るのが吉であろう。


 茂木は人を疑う事が嫌いだ。期待して裏切られるのはもっと嫌いだ。これまでの村人達の親切に全て裏があったと思うだけで溜息が出る。


 落胆しながらも、茂木は更に思考する。


 もしかしたら、もしかしたらであるが、血痕の主はまだ生きているのではないか。


 なぜ茂木がそう思ったか、それは岩場に落ちていたスマホの存在である。


 もし茂木の考え通りに、陽のある時間にあの場でスマホの持ち主を誰かが殺害したのであれば、スマホは犯人によって回収されているはずだ。岩場に隠されていたメモも、たまたまあの場を訪れた拓海が見つけたくらいだ、そんなに奥深く隠されていたわけではないのだろう。死体を回収した犯人に、スマホと一緒に回収されていてもおかしくはない。


 犯人は慌てていたのでは無いだろうか。岩場に潜んでいた血痕の主に背後から近づき一撃を食らわせたはいいが、血痕の主にとどめをさせずに逃げられて、その後を追ったために、スマホを回収する暇がなかったのだ。


 茂木の推理が全て正しければ、血痕の主はまだ逃げ延びている、もしくはこの村を脱出している可能性がある。なぜ血痕の主が追われ、このようなメモを残したのかはわからないが、それはきっとこの村の秘密に関わっているはずだ。


 だが、茂木にとってそんな事は関係の無い事だ。


 村の秘密に首を突っ込むつもりは無いし、優先すべきは自分達の身の安全だ。


 茂木は自分の考えを拓海に話さなかった。心配性の拓海の不安を無駄に煽る必要は無い。さっさと村を出て、後に笑い話にでもすれば良いのだ。拓海が早く村を去りたいのであれば、茂木もそうするべきだと思った。そして適当に話を合わせ、村を出るために荷物をまとめる事にした。

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