第102話

 そして翔子は、どうしても拓海を助け出したいのであれば、今闇雲に村の中を探すよりも、拓海が捕まってから寺に助けに行く方が無駄がないと提案する。

「馬鹿言うなよ! 助けに行くまでに拓海が喰われたらどうするんだ!?」

「それは多分大丈夫。今お寺さんには何人か順番待ちがいるから」

 茂木は昨日、数人の男達が乗せられた車が寺へ向かうのを見た事を思い出す。畑仕事をしていた老婆が工事の人間だと言っていた男達だ。


「昨日車で寺に入っていったあれか。五、六人はいたと思うけど、あれも俺達みたいに迷い込んだ奴らか?」

「違う。多分あの人達はインターネットの自殺サイトで集められた人達」

 インターネット。この村では無縁の言葉だと思っていたが、食人という原始的な行為をしている割には、なんともイメージに合わぬハイカラなものを利用しているようだ。しかし、理には適っているかもしれない。どうせ死ぬ人間であれば、彼らの命と精液を彼女達が利用しようというのだ。これから死のうと考えている男達からすれば、美女達に抱かれて死ねるのなら本望であろう。まさか生きたまま貪り食われるとは思いもしないだろうが。


「それか、村のスポンサーから処分するように頼まれた人達か」

「スポンサー?」

 スポンサー。またしても予想外の言葉が飛び出した。翔子によると、この村は反社会組織とも密かに繋がりがあるらしい。村人達は彼らに村で精製したセックスドラッグを提供したり、彼らが処分したい人間を処理する代わりに、インフラの整備や警察関係への根回しをしてもらっているとの事だ。


 どうやらこの村は茂木が思っているより閉鎖的ではなく、邪悪であるようだ。


「とにかく、喰われるなら彼らが先のはずだから、拓海さんはすぐには殺されない」

「でも、拓海が捕まるかどうかわからないだろ?」

「遅かれ早かれ絶対捕まるよ。この村から逃げられた人はいないんだから」

 確かに、この村から逃げ延びた人間がいるのであれば、全国的にとんでもないニュースになっているだろう。まさに事実は小説より奇なりだ。


「寺には見張りがいるんじゃないか?」

「常駐してる人はが一人いるけど、それは暴力でどうにかするしかないよ。人を入れておく地下室の鍵も常駐所にあるから」

「拓海が捕まったかどうかはどうやって知る?」

「私が一度家に戻る。拓海さんの相手をしたのは私だから、捕まったら連絡が来るはずだから」

「それまで俺はどうするんだよ」

「車をどこかに隠して、茂木さんも隠れていて」

「マジで言ってるのか? 無理だろ」

「車は捨てて大丈夫。いざとなったらウチのを使えばいいから、とにかく茂木さんは隠れていて」

「まぁ、最悪俺はまだどうにかなるよ。たださ、コレが見つかったら家に戻った翔子ちゃんが危ないだろ」

 茂木は親指で後部座席に転がる女将を指差す。

 拓海だけでなく、二人もかなり深刻な状況であった。

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