第109話
翔子が葉月を突き放そうとするほど、葉月は更に強く唇を押し付けてくる。そして器用に翔子に足を絡ませると、押し倒すように畳に寝かせた。
それは先程一階で押し倒された時よりも優しく丁寧な動作で、翔子はそれが余計に怖かった。
「翔子ちゃん、あなたは私のものよ。私はずっとあなたを育ててきたの」
葉月はそう言って翔子に額を合わせる。
「あなたは誰にも渡さない。どこへも行かせない」
そして再び翔子の唇に吸い付いた。
この村では、我が子や隣人を愛する事はできても、「恋」をする事はできない。例え村を訪れた男に恋をしても、数日後にはその男は自らの腹の中に収まる事になる。だからこの村では「愛すれど、恋するな」と教えられる。
しかし葉月はそれが不満であった。
幼い頃、母に買って貰った小説を読み、葉月は恋というものに憧れた。恋する事なかれと教えられても、どうしても恋というものをしてみたかった。
村で一番美人の年上の女を好きになってみようとしたり、同い年の女の子と恋人ごっこなどをしてみた事もあったが、恋の感覚はわからなかった。女同士なのだからそれは当然である。
そこで葉月は恋する相手を作る事にした。
葉月は以前から世話をしていた翔子に目をつけ、これまで以上に愛情をかけて世話をやき、優しく接し、時にアドバイスをする事で、自分好みの女へと育成していった。
年頃になると、葉月は真っ先に男へ奉仕する事を志願した。翔子の育成は続けていたが、例え一晩でも男に恋する感覚を味わいたかったのだ。だが、葉月が処女を捧げた中年の男に、葉月は全く恋という感情を抱けなかった。それから何人もの男に抱かれたが、恋というものはわからずじまいであった。しかし、村人達に陰で忌子と呼ばれながらも、日に日に女らしく、そして逞しく育つ翔子を見て、葉月は愛情とは別の感覚が徐々に湧き上がるのを感じていた。
自らの行為が実を結んだと理解したのは昨夜の事だ。葉月は拓海の部屋から響く翔子の嬌声を聞いて「嫉妬」したのだ。自らが時間をかけて育ててきた少女が、拓海のような何の変哲も無い男に抱かれる事に。
葉月は悔しいと同時に嬉しかった。
自分は翔子に「恋」する事ができたと。本当は自分が翔子を抱きたかったという事を実感できたのだと。ならばもう我慢する必要は無い。実が生ったのなら後は食すだけだ。それを拒否などさせない。自分がそれまで手間暇をかけて育ててきたのだから、拒否などさせるはずはなかった。
葉月は思う存分に翔子の唇を貪り、その肢体に指を這わせる。女が快楽を感じる方法は、葉月自身が一番よくわかっていた。自らの指の動きに合わせ、翔子の身体が小さく跳ねるのが楽しかった。自らの妹のような存在に悪戯をするという禁断に、心が弾み、締め付けられる。葉月の脳は香炉を炊いた時とは違う鮮烈な感覚に焼かれ始める。それは肉体の刺激で得られる快楽とは違う、心の快楽だった。
それは葉月が幼い頃読んだ清らかな恋ではなく、うねり、曲がり、歪んだ邪悪な恋であった。
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