第11話

「あのー、自己紹介まだだったよね」

 拓海が桜子の事を思い出していると、いつの間にか隣には葉月が従姉妹だと言っていた少女が並んで歩いていた。


「あ、そうだね」

 拓海はハッとして、隣に立つ彼女を見る。

「私、三浦翔子みうら しょうこよろしく」

 翔子が名乗ったので、拓海も続けて名乗った。

「水上拓海。よろしく」

「拓海さんかぁ。名前、カッコイイね」

 翔子に急にそんな事を言われて、拓海は少し照れてしまう。お世辞かもしれないが、拓海は女性に褒められる事にあまり慣れてはいなかったのだ。

「あ、ありがとう。名字が三浦って事は、葉月ちゃんの父方の親戚なのかな?」

「んー、そんな感じ」


「そんな感じ」その曖昧な表現に拓海は違和感を覚えた。何か明言したくない事情でもあるのだろうか。拓海が訝しむと、翔子は言葉を続ける。

「でも、この村で名字はあてにならないよ。住んでる人殆ど三浦だから。田舎って感じだよねー。小学校とか三浦だらけだからみんな下の名前で呼ぶんだよ」

 そう言って翔子は苦笑いをした。

「なんかアットホームでいいじゃん。みんな仲よさそうだね」

「仲良いよー。クラスみんなが兄弟姉妹みたいなものだから」

「そうなんだ。翔子ちゃんは大学生?」

「まだ高二だよ。大学生に見える?」

 翔子は少し嬉しそうな表情を浮かべる。

 翔子は拓海が翔子の容姿が大人っぽくて大学生だと言ったのかと思っているようだが、それは少し違う。容姿は高校生くらいに見えるが、髪の色が高校生にしては明るかったので、もしかしたら童顔の大学生なのかと思っただけだ。


「あー、うん。翔子ちゃん大人っぽいから大学生かと思ったよ。髪の色、自由なんだね」

 茂木ならば正直に「いや、見た感じは高校生っぽいけどさ」と、正直に告げ、その後上手くフォローするかジョークを挟むのであろうが、拓海はそのスキルを持ち合わせていないので、適当に話を合わせて誤魔化した。

「まぁ、先生には色々言われるけどねー」

 翔子はそう言って、自らの髪を撫でる。

 翔子の髪は染めてはあったが実に艶やかで、よく手入れがされているのが見て取れた。


「拓海さんて彼女とかいるの?」

 突然、予想外の質問が翔子から飛んできた。

 つい先程まで桜子の事を考えていた拓海は、その質問に思わず戸惑う。

「今は……いないよ」

「いないよ」では無く、「今は」と付けて答えてしまう自分を、拓海は何となく女々しいと感じてしまった。

 それを聞いて翔子は「ふーん」と、どこか素っ気なく返す。そして何やら考えているようであった。

 拓海は何となく桜子の事を忘れられない自分の心中を読まれてしまったように感じ、慌てて切り返す。

「翔子ちゃんは彼氏いるの?」

「私はいないよ。この村にいたら中々出会いが無いしさ」

「高校では? 女子校じゃないよね」

「共学だよ。でも……うーん、まぁ、ちょっとね」

 その答えもどこか曖昧な返しであった。

 拓海は翔子のその返しを、翔子の通う高校には翔子の眼鏡にかかる男子がいないという意味だと捉えた。


「翔子ちゃんなら大学行ったらきっとモテるし、いい人も見つかるよ」

 それは拓海の『恋愛に興味はあるが白馬の王子様が中々現れない、恋に恋する乙女』に対する精一杯の励ましの言葉であった。

 すると、翔子は拓海の言葉に顔を綻ばせる。

「そうかな!? そう思う!?」

 急にテンションの上がった翔子に拓海は一瞬戸惑ったが、すぐに笑みを浮かべて頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る