第75話
男が女達から喰われ始めて、どれくらい時間が過ぎたであろう。達山には随分長く感じたが、恐らく十分くらいであろうか。部屋の外まで響いていた男の絶叫が止まった。
ようやく楽になれたのだろうかと、達山はその場に崩れ落ちそうになる。だが、次に達山の耳に聞こえてきたのは、男の笑い声であった。
男は引き千切られた顔を歪め、まるで愉快な映画でも見ているかのように、骨が見えている肩を震わせ笑い続ける。その狂気的な姿を見て、達山は理解する。あまりの痛みと恐怖と絶望に、男の脳は生きる事を諦め、快楽物質を垂れ流し、主人に最後の安らぎを与えたのだ。
達山はそこでようやく我に返った。
もし彼女達に見つかれば、次にああなるのは自分だ。最早この村の謎の事などどうでもいい。アヤや美咲を村から連れ出そうなど、一時の甘い妄想に過ぎなかった。昨夜の美咲の奇行は、達山を喰らおうとしていたのだ。
交尾の最中に相手を喰らう。その習性を持つ生物を、普段昆虫の生態を研究している達山は知っている。彼女達の行動はそれに酷似していた。
なぜ彼女達がその様な行動を取るのかはわからない。だが、そんな事は逃げ延びてからいくらでも考えれば良いのだ。
足の震えを押さえつけ、達山は足音を立てぬ様に後ずさる。そして、本堂の方へと向かおうとして、その動きを止めた。
本堂へと通じる渡り廊下。そこには、いつからいたのか、達山を真っ直ぐに見つめる一人の女がいた。
「こんにちは」
そこにいたのは、今朝アヤの家を訪ねてきた葉月という女であった。
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