第57話
その日、達山は研究で使う昆虫の採集のために、霧島市内の山奥を車で走っていた。本来ならば学生が二人ついてくるはずであったのだが、一人は体調不良、一人は休養で来れなくなり、一人で出かける事となった。
達山は最近の学生の学習意欲について嘆きながら、オーディオでお気に入りの「アース・ウィンド・アンド・ファイアー」のアルバムを流し、片側一車線の山道を車で走り続ける。
いつもは市内から鹿児島空港の方に向かい、いつもの昆虫の採集スポットに向かうのであるが、その日は新しい採集スポットを探してみようと思い、霧島連山へと向かう道を曲がってみた。
幸い今日は同行者はいない。気まぐれに任せてドライブしてみるのも良いだろう。達山はそう考えながら、木々の生い茂る山中を進む。虫の生息していそうな場所を求め、山奥へ山奥へと。
しかし、あまりに気まぐれに車を走らせたせいか、達山は完全に道に迷ってしまった。達山の車にはカーナビは搭載されておらず、あまりにも山奥に来てしまったために携帯の電波も通じない。
達山が「これは参った」と思いながら車をとばしていると、前方を走る一台のライトバンを見つけた。達山はそのライトバンについて行く事にした。そうすればどこか見たことのある道に着くであろうと思ったのだ。
しばらくライトバンの後をついて行くと、ライトバンは山道の途中で急に左にウインカーを点けた。ライトバンは一見何もない場所でウインカーを点けたので、達山はライトバンが停車して休憩でもするのであろうか、もしくは後ろを走る達山を先に行かせようとしているのだろうかと思った。
しかし、そうではなかった。
ライトバンは減速すると、ゆっくりとガードレールの途切れた場所へと車の頭を突っ込む。そして木の枝を押しのけるように、その奥へと入って行った。
達山はハザードを点けて車を端に寄せ、車を降りる。そしてライトバンが消えたガードレールの合間を覗き込んだ。
生い茂る木々のせいで、あまり先の方は見えなかったが、舗装されていない地面には、確かにタイヤによって付けられた轍が続いていた。
ちょっと行ってみようか。
随分と山奥まで来た。もしかしたら轍の先には荒らされていない絶好の採集スポットがあるかもしれない。民家があれば道を聞くこともできる。達山はそう考え、車に戻りエンジンをかけた。
その先に何があるのかも知らずに。
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