第130話
クリスマスを間近に控えたある日の事であった。
その日拓海はクリスマスムードに包まれた天神の繁華街で、桜子へのクリスマスプレゼントを選んでいた。今年のクリスマスは、板金のおかげで以前よりも綺麗になった車で桜子と一緒に少し遠出をして、福岡でも評判の良いイルミネーションスポットに行く予定である。そこでバイト代を貯めて買った、少し高価なプレゼントを桜子に送るつもりだった。
拓海がジュエリー店のショーウィンドウの前で、ジュエリーの値段に眉を顰めていると、ポケットに入れていたスマホが振動を始め、着信を知らせる。拓海がスマホの画面を見ると、画面には茂木と表示されていた。拓海が電話にでようとすると、着信は唐突に途切れる。拓海は一度茂木にかけ直したが、茂木は電話には出なかった。
拓海はかけ間違いだろうと思い、その着信を気にせずにいたのだが、数分程後に茂木からメールが届いた。文面にはこう書かれている。
(ちょっと相談がある。今夜七時にA棟の大講義室に来てくれ)
相談とは何のことかと拓海は返信したが、それっきり茂木からメールが届くことは無かった。
拓海は茂木から愚痴を聞かされる事は多々あったが、何かを相談されるという事はあまり無かった。しかもこのようにあらためて相談された事は無い。そもそも冬休みのこの時期に、わざわざ学校へ呼び出すというのもおかしな話だ。内密な話がしたいのであれば拓海の部屋か茂木の部屋ですればよいのだ。茂木の事だから何か良からぬイタズラでも考えているのかもしれない。
スマホのデジタル時計を見ると、時刻は午後五時過ぎを指しており、茂木の呼び出しまではまだ時間がある。拓海はその後もしばらく桜子へのプレゼントを見て回り、夕食に牛丼でも食べてから呼び出し場所へ向かおうかと思ったが、今日の夕飯は呼び出しをした茂木に奢らせようと考えて、何も腹に入れぬまま大学へと向かった。
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