第5話

 拓海は女性の指示通りに更に車を走らせる。

 広く間隔を空けて建っている民家はどれも古民家のような平屋で、拓海はまるで昔話の世界に迷い込んだ気分だった。

 しばらく車を走らせると、女性は一軒の民家の前で止まるように言った。拓海が門の前で車を止めると、明かりのついた民家の玄関から一人の若い女性が出てきて、車へと駆け寄ってきた。


「お母さん! 遅いから心配していたのよ。どうしたの?」

 民家から出てきた女性の年齢は拓海達と同年代か少し上くらいであろうか。彼女が助手席に座る女性が同居していると言っていた娘なのだろう。

「ごめんね葉月。車が故障しちゃって、通りかかったこの人達に助けてもらったの」

 葉月と呼ばれた女性は、運転席に座る拓海と後部座席の茂木を見てペコリと頭を下げた。

 すると、助手席に乗せた女性はこんな事を言い出した。

「車はここでいいから、よかったら家に上がっていって」

 夕方からずっと車中にいた二人は、一息つきたかったために女性の言葉に甘える事にする。

 拓海は車のエンジンを切り、車外に出ると、茂木と共に民家へと駆け込んだ。

 その時拓海はどこからか視線を感じた気がしたが、宵闇の中に人の姿は見当たらなかった。


 民家の居間へと通された拓海と茂木を、二人はお茶とお菓子でもてなしてくれた。

 二人が乗せた年配の女性は、自らを三浦良子と名乗った。そして案の定葉月は良子の娘であるとの事だった。


 葉月は二人の前に出された湯飲みに二杯目のお茶を注ぐ。

「そう、温泉旅行に来られたんですね」

「そうなんですよー、でも道に迷っちゃって困ってたんです」

 葉月の顔を見ながらそう答える茂木の鼻の下は僅かに伸びている。

 拓海と茂木がこの家に招かれる事にしたのはもう一つ理由があった。それは玄関先に現れた葉月がとても美人であったからだ。

 拓海達の住んでいる福岡には比較的美人が多いと言われているし、拓海自身も街を歩いていたり大学内にいてもよくそう思うが、葉月はその中でもあまり見られない程の美人であった。

 長く伸びたストレートの髪は鴉の濡羽のように黒く、肌は色白で、スタイルも良い。薄手のトレーナーにパンツスタイルという地味な服装をしているのに、強い色香が溢れている。


「あの、私の顔に何か?」

 ふと気がつくと、拓海は葉月の顔を凝視してしまっていたようだ。「いや、すいません」と慌てて取り繕い、拓海は湯飲みのお茶を啜った。

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