第73話

 本堂の脇から廊下に出て、更に奥に進むと、そこには渡り廊下があり、その先には本堂よりも大きな建物があった。そちらの方へと進むと、その建物からは軋むようなギシギシという音が聞こえてくる。その中に、微かに女性の悲鳴のような声が混じっていた。


 いや、違う。その声は昨夜美咲の口から出た、絞り出すような甲高い声。それは悲鳴ではなく嬌声だ。


 だとすれば、建物の中で何が行われているのかは明確である。あの中には女がいるのだ。そして男もいるはずだ。村人達に身ぐるみを剥がされた男が。


 建物の窓や入り口は木製の雨戸で囲まれており、中の様子は伺えない。しかし、建物と同じで雨戸も相当古いもののようだ。足音に気をつけながら、達山はどこか覗けそうな場所を探す。すると、建物の側面にある雨戸が一箇所大きく歪んでおり、隙間ができている。女の声はそこから聞こえてくる。

 達山が顔を近づけると、隙間からは例の香炉の匂いがむせ返る程に漏れていた。


 それを嗅いだ達山は、後頭部が熱くなるのを感じたが、手で口を塞ぎ、中を覗き込む。


 広い部屋の隅には燭台が立っており、蝋燭に火が灯っているが、随分と薄暗い。更に香炉から出る煙で視界は更に悪い。


 霞がかかったような部屋の中央には、診察台のようなものが置かれており、その上には何やらもぞもぞと蠢く塊が見える。


 目を凝らしてよく見ると、それが何かはすぐに明らかになった。


 診察台の上では女が腰を振っており、その下には組み敷かれた男の姿がある。


 そしてその男には。


 手足が無かった。

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