第112話
翔子が心に負った傷は大きかったが、得られた情報も大きかった。
新しく得た情報を元に、二人は湿った畳に座り込み、再度作戦を考える。
葉月の話を信じるのであれば、拓海は明日の夜までは無事という事だ。拓海の他にも数人の男達が寺に捕らえられているとの話であったが、彼らを救出して仲間に引き入れるという茂木の案はすぐに却下となった。
今は他の者達を助ける余裕は二人には無い。しかもその男達が寺にいる間は、寺にいる女達の人数も増えるであろう。二人がジャッキーチェンとクリスタッカーのコンビであれば、女達を蹴散らし、全員を救出する事ができるかもしれないが、残念ながら二人はロス市警の刑事ではない。男達には拓海が喰われるまでの時間稼ぎになって貰うしかない。
「問題は地下室の鍵だな」
拓海が捕らえられているのは寺の地下室で、地下室の鍵は寺の常駐所で管理されている。翔子は常駐所には一人しかいないであろうと言ったが、もし複数人いた場合は鍵の奪取はかなり困難になる。茂木と翔子の二人では、大の大人を迅速に取りおさえるのは一人が限度であろう。寺には警報装置もあり、サイレンが鳴れば村中の女達が寺に押し寄せてくる事になっているそうだ。そうなればもう手詰まりだ。拓海の救出どころか、二人で村を出る事すら不可能になる。
「寺に火をつけるのはどうだ? 鍵取って地下室から拓海を連れ出すだけなら火がまわる前に……」
「ダメ、絶対警報鳴らされる。それに拓海さんを助け出しても、寺を包囲されてたら終わりだよ」
「警報装置を切る方法は?」
「私が知ってると思う?」
「……俺が囮になるのはどうだ?」
「逃げ切れる自信ある? そのあとすぐに合流できる?」
茂木は考え、口を噤んだ。
「正直、拓海を助けるのってかなり難しくないか?」
「だから最初にそう言ったよ! あんたがカッコつけて拓海さんまで助けたいって言うから!!」
茂木の言葉に翔子は苛立ち、茂木の足を蹴り飛ばす。最初から拓海を諦め二人で村を出ていれば、翔子が葉月に犯される事もなかった。翔子が苛立つのも当然である。
しかしその時、翔子の脳裏に一つのアイディアが浮かんだ。
「寺から人払いする方法、あるかも」
翔子の視線は、茂木の手に握られたジッポライターに注がれていた。
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