第33話

「拓海さんは謙虚な人なんですね」

 山道から農道に出た辺りで、まだ沈んだ様子の葉月はそんな事を言い出した。

「この村では、訪れた人に満足していただけるまでもてなす決まりなんです。拓海さん、もっとあなたがしてほしい事、したい事があれば、何なりとおっしゃって下さい」


 葉月のその言葉には、どこか必死さのようなものが込められているように感じる。

 葉月の申し出は嬉しい。しかし、それが拓海の不安を余計に煽るのだ。

「翔子ちゃんでは満足いただけませんでしたか?」

「そんな事は無いよ! むしろ凄く良かったけど……」

「……けど?」

 葉月は足を止める。煮え切らない拓海の言葉に怒りを覚えたのであろうか。人を怒らせる事が嫌いな拓海は、葉月の僅かな苛立ちを敏感に感じ取った。

「「けど」何ですか? 言って下さい。もっとあなたの欲望を解放してください」

 その場の空気が徐々に変わってゆくのがわかった。拓海は今、葉月に言葉を強要されているのだ。丁寧な物腰ではあったが、有無を言わせぬ圧迫感が葉月から溢れ出ている。


 うつむき気味の葉月の顔を見ると、拓海を見つめるその目には何の感情も伺えず、まるで拓海を品定めしているようにも見える。

「葉月ちゃん?」

 拓海は葉月のただならぬ様子に一歩後ずさった。

 今の葉月には、先程鉈を手にしていた時よりも数段恐ろしげな気配を感じる。

「もっと満足してくだい。もっともっと……今死んでも惜しくないと思えるほど満足してください。そうでなければ私は、私達は……」


 その時、葉月の目の中で何かがうぞうぞと蠢いたような気がした。それは拓海の気のせいであったかもしれない。しかし、今の葉月の様子が普通ではない事は明らかである。まるで、今にも襲いかかろうとしている獣が切れかけた縄一本で繋ぎ止めらているような、そんな危うさが拓海の体を硬ばらせる。


 葉月は拓海に歩み寄り、手を握った。そして強引に手を引いて近くの納屋へと入り、戸を閉める。さらに拓海の体を壁際に押しやると、腰を押しつけながら唇を合わせてきた。あまりに突然の出来事に、拓海は抵抗できずにされるがままであった。


 ドクン


 昨夜の香がまだ効いているのであろうか、葉月のキスに、昨日股間が痛くなる程吐き出した性欲が再び目を覚ます。気がつくと拓海は自ら求めるように舌を動かしていた。

 葉月が空いた手で拓海の股間を撫で上げると、全身にゾクゾクとした快感が走り、あっという間に固くなる。葉月は唇を離すと拓海のジーンズを下ろし、固くなった拓海の股間をボクサーパンツから丁寧に取り出して舌を這わせた。


 ゾクリ


 拓海の背に強い快感が走る。

 古びた納屋の中に、葉月が拓海の股間をむしゃぶる音が響く。拓海はあまりの快感に膝が震え出し、今にも腰から崩れ落ちそうになる。

 ガクガクと震える膝を、拓海は後ろ手で壁にしがみつき堪えた。葉月は快楽に震える拓海を上目遣いで見ると、ニヤリと笑みを浮かべ、淫らな音を奏でながらより激しく拓海の股間をしゃぶりあげる。

 拓海があっという間に絶頂に上り詰めそうになったその時、葉月の舌がピタリと止まった。

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