第36話

 茂木は始めは不機嫌そうに話を聞いていたが、拓海が葉月の言動について話し始めると、腕を組んで考え込むような素振りを始めた。そして拓海が全てを話し終えると、腕を解いて新しいタバコに火を点けた。


「なるほどなぁ……。お前が帰りたがる理由はわかった」

「だろ? だから、早くこの村を出ないか?」

 拓海が身を乗り出すと、茂木は口を半開きにしてゆっくりと燻らせる。そして拓海に手渡されたメモを見ながら言った。

「このメモの意味、なんなんだろうな。イタズラにしては意味深ていうかさぁ。意味わからないのが逆に不気味だよな」

「意味は俺にもわからないよ。でも、この村には何か秘密があるのは確かだ」

「なんか安いホラー映画みたいな話だなぁ。このメモを書いた奴は村の秘密を知ったから消されたとか、そういうアレか?」

「だから、それはわからないって。ただ、俺はそのメモの意味を知りたくはないし、知れば多分無事では済まないと思う。だから早く村から出ようって言ってるんだよ」


 拓海の言葉を聞いた茂木は立ち上がり、大きく伸びをする。そしてあっさりと言った。

「じゃあ、帰るか」

 拓海は茂木がもっとごねると思っていたので、そのあっさりとした返事に拍子抜ける。

「正直さ、めっちゃ名残惜しい。でもせっかく二人で旅行に来たのに、お前だけ楽しめないってのもなんだしなぁ。それにここ全然電波届かねぇし」

 茂木はタバコを消し、部屋を出て行こうとする。

「おい、どこ行くんだ?」

 拓海が問うと茂木は振り返り、眉を顰めて答える。

「は? 荷物まとめるんだよ。早く出るって言っても流石に荷物くらい持って行くだろ」

「あ、あぁ」

 拓海が頷くと、茂木は部屋を出て行った。


 ドアが閉まり、茂木の背中が見えなくなると、拓海は大きく息を吐く。そして茂木がテーブルに置いて行ったメモを見た。このメモが無ければ、拓海はもしかしたらまだこの村に滞在するつもりでいたかもしれないし、茂木もこのメモを見なければ、拓海の話を戯言だと一蹴していたかもしれない。

 このメモを書いた人物が今どこにいて何をしているかは知らないが、拓海は心の中で感謝した。もしかしたらもうこの世にいないのではないかと思いながら。


 拓海は畳から立ち上がり、急いで荷物を纏め始める。荷物の中身を確認したが、何もなくなっているものは無く、車のキーもちゃんと入れた場所に入っていた。

 荷物を纏めた拓海は、忘れ物がないかをチェックし、茂木の部屋へと向かう。

 そして茂木の部屋のドアを開けた拓海は愕然とした。


 部屋には誰もいなかった。


 ただ、中途半端に荷造りがされた茂木のカバンだけが、テーブルの上に置かれていた。

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