エピローグ

 あれから十年が過ぎた。


 あの夜、到着した救急隊員の処置により拓海は一命を取り留め、リハビリや精神的ケアを含めて半年間入院し、大学を一留する事にはなったが無事に退院した。


 警察からの取り調べで、拓海は苦悩した結果あの村の事を全て話したのだが、後に警察が村のあった場所を調査した結果、建物や田畑はそのままに、人一人おらずもぬけの殻になっていたそうだ。


 今でもあの村の女達は、社会に溶け込みどこかで生きているか、どこかに新たな集落を作っているのかもしれない。


 拓海は今は大学を卒業し、大手証券会社で働きながら忙しい日々を送っている。今でも毎年、茂木や桜子の墓に花を手向ける事は忘れていない。


 そんな拓海の携帯に、ある日突然連絡が入った。


 たった今、拓海の子供が産まれたそうだ。

 拓海がその事を上司に報告すると、その日は忙しい日であったにも関わらず、上司は拓海に「行け」と言ってくれた。


 会社を出た拓海は、あの日以来うまく動かなくなった足を少し引きずりながら走り出す。

 その走りは決して速くは無かったが、拓海の心の中ではあの日闇夜の中を駆けた時よりもずっと速く走っている気持ちだった。


 拓海は走る。

 新たな命の誕生の感動を胸に。


 スーツのポケットには、あの日共に村を駆けた十得ナイフが今も入っている。

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