Episode03-20 ハニ〇君?
「神界の30日修行」を終えた俺は、前回(といっても
ちなみに、爺ちゃんの家には未だ母さんがいた。(俺的にはかなり遠い昔の話に思えるが)昨日の病院からの帰り道で「明日には高崎に帰る」と言っていたので、てっきりもう高崎に帰ったのだと思っていたが、予定を変更したらしい。
母さんに休みを延長した理由を訊くと「まぁ、そんなに忙しい訳じゃないから」と言っていたが……十中八九、俺を心配しての事だろう(彩音が教えてくれたので間違いない)。
母さんの職場はお隣群馬県の高崎にある「司法書士事務所」だったか「法律事務所」だったか、そんな感じの士業系の事務所だったと思う。「休み」の融通は利かせやすいのだろうか?
「大丈夫よ。そんな事よりもしっかり食べなさい。今日も彩音が作ったのよ」
「味付けはお母さんだけどね~」
なんだかすっかり仲良くなっている彩音と母さんを前に、俺は食卓に並んだ夕ご飯を食べる。今晩のメニューは鶏のから揚げとハンバーグ(俺はお子様か?)、後は大根、ニンジン、油揚げを薄味に仕立てた煮物だ。
食べている間、彩音は妙に俺の方をチラチラと見て来たが多分リアクションが欲しかったのだろう。ただ、そんな彩音の様子を抜きにしても、美味しいご飯だと思う。とくに、薄味で作られた煮物が妙に美味しい。なので、それを言うと、
「カツオと昆布から出汁をひいて作ったのよ」
とのこと。まるで
(料理教室だな)
と思ったが、それは言わないでおいた。
その後は、彩音と母さんから日中の話を聞いた。なんでも、塩尻の方まで買い物に出て、その後に病院に行き、そこで彩音が婆ちゃんから「里神楽」を幾つか教わった、とのこと。彩音は新しい「舞い」を勿体ぶって披露してくれなかったが、口振りから察するにちゃんと「効果」があったらしい。
(アプリのスキル以外でも効果があるのかぁ)
ちょっと不思議だが、まぁいずれ「穢界」に行けば分かるだろう。
一方、俺の方の話は……詳しく語ることはしなかった。2人の食欲がなくなってしまっては困るし、過剰に心配されるのも嫌だ。それに、これは本心からそう思うのだが、初回の「20日修行」に比べると精神状態は遥かに
「前に比べると全然マシだから、大丈夫」
とだけ伝えた。
*******************
翌朝、俺は前回同様「草むら」の中で目が覚めた。直前まで、なにか柔らかいモノを腕の中に感じていた気がしたが、まぁ、目覚めが良いので深くは考えない事にした。
「おはよう迅」
「今日も早いな」
と声を掛けて来るエハミ様と諏訪さんの様子は前回と同じ。ただ、今回諏訪さんは丸太ではなく、木で作った「剣」を持っていた。日本刀のような反りのある「木刀」ではなく、反りのない真っ直ぐな「木剣」だ。
「今日からはコレを使え」
諏訪さんはそう言うと木剣を投げてよこす。俺は起き上りつつ、それを片手で受け取ると柄を握って「ソレっぽく」構えてみる。丸太を使った「型稽古」をずっとやっていたから、多分ソレっぽくなっていると思う。
木剣は、反りこそ無いが片刃風の造り。ただし切っ先から
「丸太より軽いし握り易いし……これは良いな」
最近では思ったことを口に出す俺。言わないでおいてもどうせ心を読んで来る2柱の神様が相手なんだ、遠慮めいたモノはとっくの昔に無くなっている。
「いや、ちょっとは敬え」
「親しき仲にも礼儀あり、でしょ?」
という「ツッコミ」を諏訪さんとエハミ様から頂くが、これもいつもの事。
「……まぁ良い。それより、今日からコイツと打ち合いの稽古だ」
諏訪さんはそう言うと片手で何もない空間を掻きまわすような仕草をする。仙人風の白い衣が渦を巻いて揺れ、目の前の地面に土煙が舞う。そして、土煙が収まった後には、
「……
俺の背丈(177センチくらい)とほぼ同じ大きさの、埴輪が立っていた。歴史の教科書の古墳時代の資料写真に出て来るようなヤツだ。全身が赤土色の素焼きに見えるが、装飾としては戦国時代以前の古代の甲冑を身に纏い、短い剣を腰に差している。全体的に六頭身ほどにデフォルメされているので、やたらと頭が大きく見える。
その姿は、
「ハニ〇くん?」
俺はその世代からは外れているが、何か(多分動画か何か)で見た記憶のある、教育放送の子供向け番組のキャラだ。たしか、馬の相棒が居た気が……
「ハニ〇くんではない。埴輪の
「え?」
諏訪さんの声を聞いて、俺はあらためて埴輪兵士を見る。目鼻口は素焼きの表面に穴を開けただけだが、その表情は微笑ましくて、どこか物悲しい。
これが
「ふん、そう言っておられるのも今の内じゃ。行け、
「ハニャッ!」
「喋った!」と思った瞬間、ハニ〇君(もう、この呼び方で良いだろう)は素焼きっぽい見た目に反した滑らかな動きで腰の剣を引き抜くと、
「フニャァ!」
一瞬で顔面を鬼のような形相に変えて突っ込んで来た。
「うおぉ!」
完全に不意を突かれた俺は、
――ブンッ!
と振られる剣を寸前で躱した……つもりが、躱し損ねて額を浅く斬り付けられた。
「痛っ!」
素焼きの剣のハズなのに、俺の額は浅く斬られ、目の前には切り払われた前髪が宙を舞っている。
タラりと「温かい何か」が額から鼻筋を伝って口元に落ちる。舐めると少ししょっぱくて鉄の匂いがした。
「あぁ、そうだった。迅、今日から『怪我の治り』にちょっと時間が掛かるように変更したからね。まぁ死ぬ事はないから、安心して!」
そういう事は早く言って欲しい、と思う。
「ごめ~ん、じゃぁ頑張ってね」
それでエハミ様はおでこに手を当てて少し舌を出して「てへぺろ」な感じでおどけて見せる。一方、
「ほれ、よそ見をしているとマズイのではないか?」
俺は諏訪さんの言葉に我に返る。既にハニ〇君は追撃の態勢に移っていた。
「ひえぇ!」
「ハニャ~!」
それから、俺とハニ〇君の死闘は随分と長い間続くことになった。
*******************
結論から言うとハニ〇君こと「
個体としては「ヤト」や「鵺」ほどの素早さは無いし、白羅鬼ほどの
特にハニ〇君が片手で振り回す剣の技は、ちょっとやそっと「型」をやっただけの俺では対処が出来ないほどだった。目が追い付くのに3日、手が追い付くのに5日くらいかかったと思う。勿論、その間に俺は「
そして10日が過ぎた頃、俺はようやくハニ〇君と「打ち合う」事が出来るようになっていた。そこで諏訪さんが、
「そろそろ頃合いだな」
またも「何か」を繰り出そうとする。それは――
「取り上げていた『目』を返してやろう」
という事だった。
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