Episode01-26 ギャル娘との出会い④
俺と彩音の2人は、八等穢界の中を「穢界の主」を求めて歩き回った。
勿論、何度か餓鬼の襲撃を受けたが、
この間、俺が驚いたのは彩音の変化だ。「桃の六尺棒」を渡した後、2度目くらいの餓鬼の襲撃までは恐れが勝って何もできなかった彩音だが、3度目の餓鬼の襲撃で突然、
「こんちくしょう!」
と怒鳴りながら、六尺棒を振り回し始めた(お陰で俺は棒を躱した弾みで尻もちをついてしまった)。そして、振り回した棒が偶然、餓鬼にクリーンヒット。餓鬼は「ギョエェ」と言って灰になってしまった。
「はぁはぁはぁ……」
荒い息を吐く彩音に、俺は「どうした?」と声を掛けるが、彼女の返事はというと、
「アイツら見てたらムカついた。さっきまで追いかけ回されてたから……もう、次からぶん殴る!」
とのこと。恐らく、さっきまでの恐怖体験がひっくり返って憎悪に変わったのだろう。その感覚は俺も
「……なんか分かるわ、その気持ち」
というもの。
俺だって、幼少期にこんな「物の怪」の
ちなみに、この辺の話を俺は歩きながら彩音にしたのだが、どうやら彼女も昔から「見える」タイプの人だったらしい。しかし、
「それ、エグくない?」
彼女の反応はそんな感じだった。
「私も『見える』ことはあったけど、向こうから何かされた事ないし……迅さん、大変だったんだね」
妙な同情心を持たれた気がする。
ちなみに、彩音はいつの間にか俺の事を「迅さん」呼びで固定したらしい。理由は「年上だから」とのこと。こう言っては失礼だが、ギャルっぽい見た目のわりに常識的なところがあるらしい。
一方で俺はというと、彼女の事を「彩音」呼びにしている。年下だけど呼び捨ては馴れ馴れしい気がして抵抗があるのだが、彼女が「そうして」と言うので仕方なくそうなった。
と、そういう会話を挟みつつ、以後の戦いでは彩音も積極的に参加するようになった。水色のワンピースに白いスニーカーという出で立ちで自分の背丈よりも大きな六尺棒を振るう彼女の姿は……ミスマッチにも程があるが、それでいて目が離せない
そして穢界を歩き進める俺と彩音の2人は徐々にマップを埋めていき、8割ほどマップが埋まった時点で「穢界の主」の居場所が何となく分かって来た。
この「穢界」はどうやら小高い場所を中心に円を描くように獣道が通っている構造ようだった。そして、中央の小高い場所に通じる登り坂が――
「こっち、だよな?」
「たぶん?」
ようやく見つかった。
*******************
穢界中央の小高い場所は少し開けた空間になっていた。そして、その場所には――
「餓鬼が2匹と……あの灰色っぽいモヤモヤは?」
「あれは多分『怨霊』とかそんな感じだと思う」
という風に、他の餓鬼よりも少し大きめサイズ(小学校高学年くらい)の餓鬼が2匹いて、その奥には灰色のモヤモヤとした塊が1つ、宙に浮いていた。
「怨霊には彩音の『六尺棒』しか利かないと思う」
「え? そうなの?」
「俺も良く知らないけど、
「じゃぁ、どうするの?」
「取り敢えず、手前の餓鬼は俺がやるから――」
「彩音は少しさがってて」と言い掛けた時、餓鬼どもも俺達に気が付いたようだった。
「ギョギョン!」
「ギャオッ!」
滑舌の悪い叫び声を上げて、2匹の餓鬼が一斉に突進してきた。
対して俺は、彩音と連中の距離を取るべく、迎え撃つように前へ出る。そして、
――ドカッ!
突っ込んで来た内の1匹に前蹴りを見舞う。狙い通り、相手の勢いを利用したカウンター気味の威力が乗った蹴りになった。しかし、
「ギョッ!」
蹴られた餓鬼は2,3歩後ろに下がっただけで、俺の蹴りに耐えてしまう。
(マジか……たぶん七等レベルだろうけど、こんなに強いのかよ)
お陰で俺のほうが少し動揺してしまった。その隙を突くようにもう1匹が飛び掛かって来る。
「うわっ!」
突き出される鋭い爪を寸前で避けつつ、餓鬼の腕に一太刀入れる。
「ギョァンッ」
結果、俺が振るった「オサキの短刀」は餓鬼を浅く切り裂いた。それで餓鬼が怯む。一方、躱した直後の俺は体勢を立て直して追撃を掛けようとするが、
「ギョギョン!」
そこに、蹴りを耐えたもう1匹の餓鬼が割り込んでくる。
「鬱陶しい!」
なんというか、餓鬼も七等レベルになると意識的に連携をしてくるようだ。お陰で1対2の数の差が厄介な存在になる。
こうなっては、俺の武器である「オサキの短刀」のリーチの短さが物足りなくなってくる。今も割り込んで来た餓鬼に一太刀浴びせたが、どうにも手応えが浅い。どうやら、
(もっと踏み込まないと)
ダメなようだ。
しかし、深く踏み込もうとタイミングを見計らうと、直ぐに餓鬼どもは2匹揃っての攻撃に移って来る。なので、1匹ずつに浅い手傷を与え続ける戦いになるのだが、こうなったら、こうなったで、今度は
(怨霊は?)
と奥に居る
(見失った?)
それで周囲を探そうとするのだが、そんな時間の余裕を与えてくれないのが今対峙している2匹の餓鬼だ。視線を外した俺に「隙を見つけた」とばかりに、
「ギョギョ!」
「ギョエ!」
相変わらずの叫び声を上げて飛び掛かって来る。
(くっそ!)
俺は止むを得ず飛び退いて攻撃を躱す。そして、
(もうこうなったら、多少ダメージを貰う覚悟で踏み込むしか)
と決心を付けた。
ちなみに、俺がこんなに焦っているのは彩音の事もあるが、それ以外にも「怨霊は衝撃波を飛ばして来る」という経験があるからだ。過去の「八等穢界(開)」で名前付きの怨霊と対峙した時の経験で、今回の怨霊は全然見た目が違うから同じように「衝撃波」を飛ばして来るか分からないが、「警戒しなければ」と直感が告げている。
そんな警戒対象の「怨霊」を見失った今、俺は多少強引に2匹の餓鬼へと間合いを詰めると、深く踏み込んで短刀を振るう。その結果、
「ギョッ――」
俺の短刀は餓鬼の首筋から脇に掛けて深く切り裂く。しかし、
「ギョギョォ!」
残りの1匹が、そんな俺に真横からタックルを仕掛ける。
このタックルに、俺はどうしようもなく横倒しに地面に倒れる。そして、餓鬼と共にゴロゴロと地面を転がりながら、何とかヤツの首を引っ掴んで短刀の刃を当てる。そして、
「キョェ――」
一気に短刀を振り抜いて餓鬼の首を掻き斬った。
「ふぅ」
やっと2匹斃した俺は少し安堵して立ち上がる。その一瞬だった。
「迅さん!」
不意に彩音の声がして、ついで
――ゴウッ!
唸る空気の音を聞いたと思った瞬間、俺は見えない何かに身体を打たれて再度地面に転がっていた。
「な、なんだ?」
ズシンと身体の芯に響くような痛みに耐え、必死に顔を上げて打撃が来た方を見る。するとそこには、先程まで見失っていた
「ええええぃっ!」
その亡霊へ目掛けて、六尺棒を振りかぶり勢い良く走り込む彩音の姿があった。
「あぶ――」
思わず「危ない!」と言い掛けて間に合わない俺。その視線の先では、飛び込んだ彩音が目一杯の力で六尺棒を振るい――
――ボフッ!
一撃で「亡霊」を斃していた。
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