Episode01-27 ギャル娘との出会い⑤


「……斃しちゃった……の?」


 と呟く俺。その視線の先では


「やった~!」


 とガッツポーズを決めている彩音。なんだろう? この、結構スゴイ娘なのかもしれない。


「あ、迅さんダイジョブそ?」

「あ、ああ……大丈夫だ」

「スゴクない? アタシ! やったよ!」

「す、スゴイね……でもなんで?」

「なんで? って、迅さんが言ったんじゃん――」


 彩音の説明曰く、俺が「手前の餓鬼は俺がやるから」と言ったので、


「じゃぁ、後ろのモヤモヤはアタシかな、って思うじゃん、フツー」


 との事。でも、普通そう思うかね?


「モヤモヤが消えてチョー焦ったけど、目の前に出て来たからラッキーだったね」


 と言うが、一歩間違えばモヤモヤ怨霊の攻撃は彼女に向かっていた訳で――


「俺が吹っ飛んだの見てただろ? あれ、結構危ないヤツだと思うんだよな」


 今更ながらに注意をしようとするのだが、


「え? そうだったんだ……そんなスゴイヤツ斃したアタシってチョースゴイじゃん!」


 分かってくれたのかどうか……。


「それよかさ、これで出られるんだよね?」

「あ、ああ。そうだと思うよ」

「じゃぁ早く出よ~よ」


 結局、俺はそれ以上の事を言うのを止めて自分のスマホを見る。そして、


――穢界を浄化しました。穢界から出ますか? はい/いいえ――


 のメッセージから「はい」を選択。


 直後、慣れた眩暈を感じて、次の瞬間には元の「緑地公園」の林の中に戻っていた。


*******************


「アタシのジャージ……あ、スマホもあった」


 「穢界」から出てすぐ、彩音はそんな感じで自分の持ち物を回収していた。ちなみに、彩音のスマホは、俺達の足元に転がっていた。おそらく「穢界」が浄化された時に俺達と一緒に現実世界に戻って来たのだろう。


「ドロだらけ……オキニだったのに、もうサイアク……」


 彩音はそんな事を言いながら、ピンク色のジャージズボンをグルグルと纏めて小脇に挟むと、ついでスマホを覗き込んで――


「いーえふだぶる? てか、なんかゲームみたい」


 と、聞き覚えのある感想を呟いている。それで彼女は、


「ねー迅さんの言ってるアプリってこれ?」


 言いつつ、自分のスマホを差し出して来た。そこには、


*******************

桧葉埼彩音 17歳 女性 Lv:4*UP!

クラス:――

身体障壁:20/28(-13)*UP!

法力:8/8(-13)*UP!

穢れポイント:13

状態:疲労

浄化ポイント:18

能力ポイント:40

*******************


 と表示された「EFWアプリ」のホーム画面があった。


 俺は自分以外のホーム画面を見るのが初めてなので、興味本位で思わず覗き込んでしまうが、


(あ、レベル上がって……それに浄化ポイントも入ってるな)


 直ぐにそんなところへ目が行った。でもまぁ、彼女も途中から率先して「餓鬼」を殴っていたし、「穢界の主」として出現した「怨霊」も斃しているから、別におかしい話ではない。


 そして俺は、もう一度全体を見てから、今更ながらに


(17歳か……完全に未成年だな、それに元気そうに見えるけど状態が疲労になっているな……)


 と気が付く。


「ね~、何か言ってよ!」

「あ、ああ。この画面が俺が言っていたアプリの画面だよ」


 俺はそう言うと、更に何か言いたそうな彩音を制して、


「じゃぁ、戻ろうか」


 と言うと彼女を促して管理事務所の方へ歩き出す。しかし、


(あ、装備を仕舞わないと)


 と気が付き、一度立ち止まるとスマホを操作。アイテム画面から「纏めて取り込む」を選択して、短刀やら籠手やら脚絆を仕舞い込む。すると、


「え? 今の何? なんか手品みたいなんですけど」


 装備が一瞬で消える様子を目撃した彩音が興味を示した。


「アプリでやったの? てか、どうやるの?」


 としつこく訊いて来る彼女に、俺は仕方なくやり方を教える。そして、


「『纏めて取り込む』をタップするのね」


 何故か得意気になった彩音は、


「ラクショーじゃん」


 と言いながら「纏めて取り込む」のタブを――


「あ、ちょっと――」


 俺の制止を聞かずにタップした。


 実は……も何も考えれば当然の話だが、アイテムの「取り出し」「取り込み」機能は「EFWアプリ」を経由して手に入れた物にしか適用されない。一方、いま彼女が身に着けているワンピース等は殆ど全て「宝珠ショップ」で買った物になる。つまり、


「あ!」

「え?」


 その瞬間、「緑地公園」の林の中に突然全裸の少女が出現することになった。


「いや、これは――」

「き、きゃぁぁぁぁ!」


 この後、相当面倒臭い謝罪と説明を求められた。そして、


(あ、「桃の六尺棒」返して貰ってない……)


 そんな事を思い出したのは、少し後の事だった。


 ちなみに、今回の「八等穢界ゴタゴタ」で、俺のレベルは1つ上がって9になった。その結果、ステータスなど諸々はこんな感じだ。


*******************

八神 迅 26歳 男性 Lv:9*UP!

クラス:小者 ★★☆

身体障壁:64/113(-19)

法力:27/27(-19)

穢れポイント:19

状態:普通(軽微な疲労)

浄化ポイント:33

能力ポイント:20

*******************

筋力 25(+11)*UP!

体力 25(+11)

敏捷 23(+11)*UP!

知力 20(+10)

霊力 26(+01)*UP!

神威 03

装備:

制服上下、安全靴、警棒、LEDライト

オサキの短刀(攻撃力+10、霊力+1)

菜取りの籠手(身体障壁+20)

田貫の脚絆(身体障壁+10、敏捷+1)

身体障壁132(+50)*UP!

法力   46*UP!


クラススキル:

小者の心得★★☆

小者剣法 ★★★ 滅茶苦茶斬り

小者格闘術★★☆ ケンカキック

小者防御術★★☆


スキル:未知の加護(封印中)

直感★★★☆☆*UP! 看破★★☆☆☆

気配察知★★★☆☆

解析不能の加護・・・・・・・を封印、ステータスに代替補正値(仮)を反映

*******************


2024年文月(7月) 都内某神宮内宮


 21世紀の日本の首都にあってなお、神聖な空気を纏う神宮の森の奥。人知れず佇む古式ゆかしいお宮・・の奥で、今宵、畏れ多い面々による定期的な会合がひらかれていた。


 清潔に磨き上げられ神氣しんきが張り詰めるような奥宮の板の間には、場違いなオフィスデスクが「コ」の字状に並べられ、居並ぶ面々 ――人の形をしたものや獣の形をしたもの、果ては岩や何かわからない不定形なモノまでも―― は全員が中央のプロジェクタースクリーンへ視線を送っている。


「では、第十一回の定例ミーティングを開始します」


 先ず口を開いたのは束帯装束に身を包んだ恰幅の良い老人、司会役の事代主ことしろぬしだ。しかし、


「今日の進行役は……えっと、誰だったかのう?」


 いきなり物忘れしたようで、後ろ頭を掻きながら思い出そうとしている。そこへ声を発したのは、九尾の神狐である「來美穂くみほの方」。


一言主ひとことぬし殿ぞよ」


 それで事代主は、


「ああ、そうであったな、では一言主殿、お願い致す」


 と促す。声に応じてプロジェクタースクリーンの横に進み出たのは、鴨のような鳥の頭を持つ異形の人型だった。


「うちは無口なたちやき、手早う説明する」


 一言主は甲高い声で一言そう断ると、手に持ったレーザーポインタを使ってスクリーンを指す。


「まず、今月のアプリ利用者の数の推移や。グラフを見とーせ。今月は適格性審査第三弾の結果が反映されゆーき、数字の変化に注意しとーせ――」


 この後、一言主の発表は「アプリ利用者数の推移」「アプリ利用者の稼働率」「アプリ利用者の死亡件数」と続いた。そして、


「これで終わりや」


 と短く言った一言主が席に戻ると同時に、事代主が口を開いた。


「三度目の適格性審査は能力要件を二度目とほぼ同じに留めて数を増やしただけだったが……ここまで死者が増えるとはのぅ」


 事代主が言うように、発表されたデータは余り良くない数字を示していた。特に、今月行われた3回目の適格性審査を経てアプリを配布された者達の死亡例が多い。


 それで、居並ぶ面々は一様に「う~ん」と思案するような雰囲気を醸すが、その流れに竿を差す者がいた。それは、狩衣装束かりぎぬしょうぞくを身に纏った赤ら顔の偉丈夫「椋之御雷むくのみかずち」だ。


「それは元から織り込み済みのことだろう」


 スクリーンに映し出された各種データを指さしつつ、椋之御雷はそう言う。そしてやや苛立った雰囲気で、


「それよりも、例の『大結界』の進捗を教えてくれ。今日こそ喋って貰うぞ、事代主」


 言って腕を組み、口を真一文字に結んだ。


 実は、ここ2年間ほど、2カ月に1度の頻度で行われてきた「定例ミーティング」において、たびたび新たな大結界 ――葦原中津国あしはらのなかつくに根固乃秘儀ねがためのひぎ―― の進捗は議題に挙がっていた。しかし、その度に「今回は時間がない」とか「それはまた次の機会に」とか「いやいや、先に話すべきことがある」と言う風に(主に司会役の事代主によって)先延ばし、引き延ばしをされていた。


 その事に業を煮やした椋之御雷が今回、会議の進行を遮って、規定の議題を無視する発言に出たのだ。


「いやいや、椋之御雷殿。他にも次のアップデートや新しい宝珠ショップの品揃えなど話すべき事は沢山――」


 対して、事代主は「やんわり」とした物言いではぐらかそう・・・・・・とするが、


「吾輩が次のアップデートを発表する予定だったのだ。しかし、後で紙で配布してもよいのだ。それよりも、吾輩もその話を聴きたいのだ」


 空気を読んでいない発言をしたのは白い大鼠こと「少彦名命すくなひこなのみこと」。それを受けて、椋之御雷は「それ見た事か」となる。


「お、お主ら・・・はそうでも、他の者達もおる。皆忙しいなか時間を割いて来ているのだ、我儘を言うものじゃ――」


 それで事代主は宥めるような調子で「正論めいた」事を言うが、その言葉は別の者によって遮られた。それは、


「確カニ、大結界ガ解カレテモウ直グ3年。ココラデ新シキ大結界ノ進捗具合ヲ聞イテオクノモ良イダロウ」


 机の上に敷かれた座布団の上に鎮座する「しめ縄を捲かれた岩」こと大山祇命おおやまつみ。そして、


「今は以前の結界の名残があるので実害はないですが、あと1年もすれば色々と差し障りが出て来るでしょう。心配です――」


 と言うのは、椅子の上(空中)に浮かんだ「エチゼンクラゲ」こと「上津綿津見神うわつわたつみのかみ」だった。この御仁は最近になって会合に顔(?)を出すようになった。


 そんな少彦名、大山祇命、上津綿津見神の賛同ともとれる発言に、他の者も追随して発言をした。それで、会合の場は少し騒がしくなった。


 この間、事代主は目に見えてアタフタとすると、最後の助けを求めるように「來未穂の方」を見るが、


「事代主殿、わらわも知りたい。教えてもれ」


 結局、味方はいないと悟った事代主は、がっくりと肩を落としてから、


「ここだけの内密の話だぞ……実は、難航しておる」


 この後、事代主は「儂も詳しい事は思金おもいかね殿から聴かされておらんのだが――」と前置きをして、事情を説明した。


 曰く、この2年間ほど「伊勢様」こと現天津神いまあまつかみの頂点に君臨する大日霊之乙比咩おおひるめのをとひめは伊勢の内宮に籠り切りで「大結界」の再構築を試みている。勿論「出雲様」こと大国主命オオクニヌシノカミも秘密裡に協力しているとのこと。  


 しかし、日本を代表する二柱の大神を以てしても、想定通りの「大結界」を再構築する作業は難航している。


「儂が知っているのはここまで……ちなみに、思金おもいかね殿から『その話題は極力避けるように』と言われていたのじゃ」


 このように事代主が白状した内容は、居並ぶ面々には少し「ショッキング」な内容だった。そのため、場は混乱に拍車がかかり、口々に「心配」や「不満」を表明するものが現れる。


 ただ、何事も「良く分からない」状況での話。次第に発言は一つの方向へ収束していった。それは、


「次回は思金殿にご参加願おう、勿論、議題は『大結界』の件だ」


 と椋之御雷が言うような結論を得た。


 これで、この日の「定例ミーティング」はお開きになった。


 このような会合が2か月に1度の頻度で行われているのが、今の日本であった。


__________________________________

Episode1 謎のスマホアプリ「E.F.W」(完


お読み頂き有難う御座いました。

次回より


Episode02「桧葉埼彩音という少女」


を開始します。


~~以下、クレクレで申し訳ありません~~


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