桧葉埼彩音という少女
Episode02-01 専業「EFWユーザー」始めました
7月の終わりから8月の初めに掛けて、俺の人生は大きく変わってしまったのかもしれない。
そう思う理由は具体的に幾つかあるが、「大した事が無い」方から順に挙げると、まず始めに、弊社こと「田村警備保障」が廃業になった。
8月5日の事だ。その時点で残っていた社員が集められ、田村(新)社長から「廃業」を通知された。曰く「警備業の認可が取り消しになった」とのこと。理由は最後まで良く分からなかったが、とにかくこれ以上許認可事業である「警備業」を続けることが出来なくなり、自動的に「廃業」という形になったらしい。
――本日で廃業、我が社は清算手続きに入ります。皆さま、今までありがとうございました。そして、すみませんでした――
田村(新)社長の妙に晴れ晴れとした宣言によって、俺は「無職」になった。
まぁ、未払いだった7月分の給料と8月5日までの給料は翌々日(8月7日)に額面通り支給されたので(賞与は結局「ゼロ」になったけど)、俺としては文句がない。もしかしたら、もう少し多く取れる可能性があったのかもしれないが、そんな事でゴネるよりも「
ちなみに、その時点で残っていた同僚達とは、田村(新)社長の廃業宣言の後にみんなで近くの定食屋に行き、そこで「廃業パーティー」というよく分からない食事会をして別れた。
吉川先輩は宣言通りに7月末で辞めていたので「廃業パーティー」には居なかったが、葛城主任は残っていたので
――これまでお世話になりました――
とお別れの挨拶をすることが出来た。
その流れで聞いた話によると、葛城主任は別の警備会社に再就職するらしい。少し待遇面が悪くなるそうだが、
――ウチは嫁がスナックをやっているから、稼げている方だ――
とのこと。「迅も行くところが無かったら、嫁の店で雇ってやるぞ」というありがたいお誘いを受けたが、丁重にお断りしておいた。
と、このように「廃業パーティー」では各自が今後の職探しについて相談し合う内容が多かったが、他の話題としては当然のことながら「廃業」の理由に関する話題があった。
噂レベルの話だったが、どうやら(元)弊社は、市や県と複数の民間企業が絡む大きな贈収賄事件に巻き込まれたらしい(というか、多分肩までドップリだったと思う)。それで、警察からの天下りだった監査役や相談役が逃げ、その直後に家宅捜索が入り、そして「警備業」の許認可が取り消される、という事になった。
その辺の話を
この時点で俺は既に「
ただ、そんな俺はさっそく「思わぬ落とし穴」にはまることになった。
それが次の出来事なのだが、まぁ、早い話、俺は「穢界」に行くための
それまでは、本来の巡回警備の合間に行う「内職」としてやっていたので、移動手段の社用車は「有って当然」だったのだが、流石に「廃業」した会社の社用車を乗り回すことは出来ない。
結果として、無職になった後の俺は「電車かバスのみ」という移動手段の都合から、最寄りの大きな駅である大宮駅の繁華街に通い詰めることになった。勿論、遊ぶためではなく、毎晩2回「九等穢界」に入って宝珠を稼ぐためだ。
そして、毎日せっせと「九等穢界」を
それまでは結構な数の「九等穢界」があったし、浄化しても翌日には自然に出来ていたのだが、流石に1週間毎日2つずつ潰せば「湧き」の方が追い付かなくなった模様。
ちなみに、駅前の繁華街には他にも「八等」や「七等」、「六等」といった穢界は存在しているが、上の等級へ挑戦するのは「まだ先の話」だと決めている。先日の緑地公園に出来た「八等穢界」では、穢界の主との戦闘で危ないシーンがあったからだ。それに、稼ぎの面でも「九等」で十分、という事情もある。
と、こういう経緯から、俺は「駅前の繁華街」以外の場所にある「九等穢界」を求めて、移動手段の入手を決意。近所のバイク屋でボロボロの中古の原付二種バイク(110cc2011年式スクーター)を買うことにした。
まぁ、免許的には(大学時代に普通車と普通二輪の免許がセットで取れる「合宿」で取得したので)普通二輪も乗れるのだが、主に価格面の理由から店頭最安値だった
それでも、お値段は登録費用等含めて9万円。その時点ではかなり痛い出費だった。
*******************
とにかく、俺はこんな経緯で専業の? 「
ただ、ここまではどちらかと言うと「自分で望んでやっている」事。
それ以外に俺は今、「望んでも無かった」事が身に降りかかって、少し対処に困っている。それは、
――バイト中! この制服、地味じゃね?――
スマホのメッセージアプリに届いたそんなメッセージ(写真付き)だ。写真の被写体はピンクに染めた髪を巻き巻きヘアにセットして、バッチリとギャルメイクを決めた……
実は、こんなメッセージが最近、ほぼ毎日届くようになった。
彼女とは、7月末に緑地公園内にできた「八等穢界」に迷い込んだ彼女を助けてからの付き合いだ。ただ、当時の別れ際に「連絡先交換しよ」と言われて、(ちょっと気恥ずかしかったが)交換したメッセージアプリがこんなにピロンピロンと着信を鳴らすとは思わなかった。
ちなみに、彼女こと
それで「使い方教えて」としつこく(メッセージで)食い下がられた。
俺としては、年下の少女に「危ない事」をやらせる様な、変な罪悪感があるのだが、放って置くと自分で使い始めそうな勢いだったので、
――チュウとリアルをしっかり勉強してからだ――
と、いつか「黒髪超絶美少女」に言われた事と同じ様な事を言ってある。
それで今日、「ちょっと訊きたい事があるんだけど~、迅さん暇だよね?」とのことで、夜の8時に駅前のマスバーガーで待ち合わせになっている。
「はぁ……どうしよ……俺」
思わずそんな溜息を吐いて時計を見ると、まだ午後の4時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます