Episode01-25 ギャル娘との出会い③
夏色ワンピース 250宝珠
*
「8MGODS」スニーカー 150宝珠
*
(こ、これは高い……けど、女の子の服は高いものだ……しかたない)
意を決して「購入する」をタップする俺。すると、スマホの画面がパッと光って、次の瞬間、俺の手元には肌触りが良いワンピースと、側面に「8M」が意匠化された白いスニーカーが出現する。
「こ、これで……」
俺はなるべく少女の方を見ないように気を付けながら、手に持ったワンピースを彼女の身体に掛ける。そして、アレやらコレやらを視界から追い出した事にホッと一息。
その時だった。いつの間にか開いていた少女の目と俺の視線が交じり合う。次いで少女は「はっ」となった表情で、両手で掛けられたばかりのワンピースを掴むと、
「きゃ、きゃぁぁぁぁ!」
思い切り叫び声を上げて、
――ゴフッ!
屈みこんだ状態の俺の横っ面に蹴りをブチ込んで来た。
「ぐえぇ!」
完全に不意を衝かれた俺は、避ける事もかなわず、まともに蹴りを喰らう。一方彼女は、
「へ、変態! ヘンタイッィィイィ!」
声を限りにそう叫んでいた。
***********************
意識を取り戻した少女に現状を説明するのは、かなり骨の折れる作業だった。何せ、俺が何を言っても「変態!」「痴漢!」「こっち見るなぁ!」の繰り返しで聞く耳を持ってくれなかったから。
そんな彼女が「素」を取り戻したのは、彼女の大声によって引き寄せられた2匹の餓鬼が襲い掛かって来てからだった。少し不意を衝かれた格好になった結果、俺は餓鬼にガブッと上腕部を噛まれて出血しつつ、何とかその2匹を斃した。
その光景を見て、ようやく大人しくなった彼女は、取り敢えず俺が差し出した服を着る気になってくれた。
「こっち見ないでよね」
「分かってます」
正座した俺の背後でガサゴソと物音が鳴り、ついで、
「あ~もう、サイアクなんですけどぉ。髪の毛グチャグチャだし……って、ノーブラパンイチじゃん、も~サイアク~」
そんな事をブツブツと呟いている。それで、3分ほど待ったところで、
「もういいよ。コッチ向いても」
と声が掛かる。俺はソロソロ……とゆっくり180度回転して彼女に向き合った。
「……」
目に飛び込んで来たのは、鮮やかな水色のワンピースを着た少女。確かに彼女がボヤくようにピンク色に染めた長めの髪はセットが乱れてボサボサになっているが、それがかえって彼女の
(前に会った黒髪の美少女とは方向性が違うけど、この子も結構な美少女だな)
などという風に考えてしまう。
「……何?」
「い、いや……ふ、服のサイズが合ってて良かったなぁ、と、あと似合ってるし」
思わず「可愛い」と本音を言いそうになるが、今はそんな事を言っている場合じゃない。そもそも、初対面の女性に対してこれでもスラスラと言葉が出て来た方だと思う。俺は奥手な男子(26歳)なんだ。
「あ、ありがと……」
対して彼女の方はそう言うと一旦視線を俺から外し、ついで怒涛の質問ラッシュを開始した。
曰く「ここは何処?」「アンタ、誰?」「さっきの化け物って何?」「どうしてアタシはここにいるワケ?」「エカイって何?」とこんな感じだ。
ちなみに、彼女はこの穢界に入る直前の状況を端的に
――タカシに告られて、それ断ったら襲われた――
と述べたので彼女が「アヤネ」で間違いないだろう。
どうやら襲われている間に、何かの拍子でスマホを触って「
「アプリ? スマホの?」
「そう、この穢界に入る前にスマホを弄らなかった?」
「そういえば……ってか、アタシのスマホは何処?」
どうやら彼女は餓鬼から逃げ回る間にスマホを何処かに落としてしまったらしい。
(ちょっと……それってヤバイな)
なるべく顔に出さないようにしつつも、俺はそう思う。
俺の考えとしては、このまま彼女をつれて「穢界の出入り口」まで行き、そこから穢界を出るというものだったのだが、スマホが無いと恐らく「穢界から出ますか?」のメッセージに「はい」を選択できない。つまり、彩音は穢界から出られない。
ちなみにスクにゃんの「チュウとリアル」でも、
――穢界の中では絶対スマホを失くしてはダメなのだ。穢界から出られなくなってしまうのだ。だから、宝珠ショップでスマホホルダーを買うのだ――
などと言っていた。
(どうしよう……)
対処方法を考えあぐねた俺は自分のスマホに視線を落とす。ホーム画面には見慣れた俺の状態表示と「アイテム」や「マップ」といったアイコンが映っているが、その下に小さくネズミの顔をしたアイコンがある。
「そうだ!」
思わず口に出して言うと(ちなみに彩音は「え? 何? コワイんですけど」とか言っているが取り敢えず無視する)、俺は小さいネズミのアイコンをタップ。Q&Aの「スクにゃんAI」を立ち上げる。
すると、スマホの画面にダイアログボックスが現れ、ネズミの顔の吹き出しに
『久しぶりなのだ迅殿、もうちょっと頻繁に話しかけて欲しいのだ。吾輩暇なのだ』
と口数が多いスクにゃんAIのメッセージが出る。対して俺は、
「クラスとかスキルの質問じゃないんですけど、質問良いですか?」
と音声入力で話し掛ける。
『いいのだ。なんでも訊くのだ』
「穢界の中でスマホを失くした人がいます。どうやったら外に出られますか?」
『え~と……簡単なのはスマホを見つけることなのだ』
「それはちょっと難しいです」
『だったら、穢界の主を斃せば穢界が浄化されるのだ。そうすれば自然に外へ出られるのだ』
「なるほど、ありがとうございます」
『え? それだけなのだ?』
「じゃ、失礼します」
『あ、ちょっとま――』
俺はダイアログボックスを閉じると、怪訝な表情でこちらを見る彩音に対して、
「外に出る方法が分かった、行こう」
と伝えた。
*******************
その後、俺と彩音の2人は獣道のような細い道を辿って林の中を進んだ。俺が先頭でその後ろをおっかなびっくり状態の彩音がくっついて来る格好になるのは自然な事だが、少し進んだところで問題が発生した。それは、
「ギョギョンッ!」
「きゃぁ!」
突然、道の脇の藪の中から餓鬼が飛び出してきて、無防備な彩音に飛び掛かったのだ。
「っ!」
この時、俺は間一髪で餓鬼の気配を察知して、何とか彩音の前に滑り込むと餓鬼の体当たりをモロに受けつつ、地面を転がりながら何とか餓鬼の首を切り裂くことが出来た。
「……」
立ち上がって振り返ると、そこにはありありと恐怖の表情を浮かべた彩音の姿があった。
(これ、何か持たせておかないと危ないな)
ちなみに、餓鬼は怪異の中でも「
「ちょっと待ってろ」
俺は彩音にそう言うと、「宝珠ショップ」の画面を立ち上げて、何か丁度良い武器は無いかとラインナップを探す。そして、
桃の六尺棒 1,000宝珠
*霊力を宿した桃の老木から削り出した棒。霊体攻撃可能。
攻撃力=12
対霊攻撃力=霊力×0.5
という棒状の武器を見つける。
(対霊攻撃……そういえば、八等穢界の主は七等相当で、対霊攻撃しか利かない怨霊が出るんだっけか)
俺は、八等穢界(開)で出会った黒髪超絶美少女の言葉を思い出す。
(ここも八等穢界だから……ちょっと高いけど買っておこう)
そう決めると、足りない宝珠を浄化ポイントで補い、「桃の六尺棒」を手に入れる。そして、スマホからそれを取り出すと、
「え、なに今の? なんかスマホから出て来たんですけど、ちょっと、なにそれ、え? え?」
となっている彩音に
「これ、持ってて。別に無理に使わなくていいから、念のため」
といって「桃の六尺棒」を手渡す。
そして、再び獣道のような細い道を歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます